審議の結果、メフィストさんのクビは繋がった。
素直によかった、と思える。
この人が落ちぶれたら私まで巻き添いをくらうのは正直きついし、メフィストさんはいつまでも理事長であって欲しい。
私が安心できたのはその点だけで、燐の方は厳しい条件をいくつか叩き付けられた。
まずは、「半年後の祓魔師認定試験に合格すること」だそうだ。
私を無理矢理連れてきたエンジェルとか言う格好つけマンによって、またしても無理矢理に法廷を押し出された。
長居するつもりなんか毛頭もないのに、さっさと出ていけと言われたのでムカついて髪の毛を10本ぐらい引きちぎってやった。
半ば意図的だが、エンジェルが私たちを押し出そうとする際に、たまたま私が髪の毛を掴んでしまった流れで引きちぎってしまった。
私だって好き好んで野郎の髪の毛をぶちったりはしない。
無駄にキューティクルがあって気持ちが悪い髪の毛は法廷を出てすぐにその辺に捨てた。
外は雨が降っていたせいで、なかなか引っ付いて取れなかった。
「色々条件は出ましたが、寛大なご沙汰で大変結構でした」
あれが寛大だと言える理事長のものさしが気になる。
理事長は、こうもり傘をどこからか出し、シュラと言う名の女性の祓魔師にさした。
私は放置か、ちくしょう理事長め。
私には傘が無い辺りが微妙に紳士じゃないな。
「何が寛大だ。…どうする気だよ」
「…それは…ホラ」
燐は、両膝をついて、次に頭を下げた。
見ればわかる、土下座。
「頼むシュラ、俺に剣を教えてくれ!!!!半年で出来るとこまででいい!!」
燐は必死だ。
「頼む!!!!」
雨あしは強くなるばかりで、弱まる気配は一向に無い。
こんなところにいつまでジャージ姿でいればいいのか。
濡れ鼠になるのにあと数分もいらないだろう。
なんて、こんな風に自分のことばかり考えている。
もちろん燐には失礼だろう、と自覚済みだ。
けれど実際、私には何の関係も無い話だ。
せいぜい同情ぐらいしかしてやれない。
私はこの場に居ても口を挟む必要もない。そもそも彼に対しては何も言うことが浮かばない。
「まぁ…。この間よりはマシな面になったじゃねーか」
私だって燐がサタンの落胤だという事実を知ったのはたった数時間前だ。
「…お前を弟子にしよう」
傍観者を気取るつもりもないけど何も出来ないのも事実だった。
「帰りますよ、なまえさん」
燐がシュラに弟子入りをしたのを見届けてから、理事長はようやく此方を向いた。
これで、ようやく帰れる。