アマイモンさんが理事長の力でいなくなるのが視界の端で捉えられた。
なんて強引なやり方だ…、と思ったが私も自分の事は言えないので目の前の燐に集中する。
血を無理矢理飲ませた事で、燐は痙攣してから気絶した。
それでもすぐに起きるだろう、大した量を飲ませた訳ではないから。

「その手で触らないでくださいね」
「もう血は止まりましたよっ」
「なら良いです。それより、学園まで移動しますのでしっかりつかまっていてください」
「え?」

理事長に掴まる間もなく、理事長は力を使った。
燐を掴んでいたので間接的には大丈夫だったのだが。

気付いたらファンシーな音と一緒に学園の門の所へと着いた。

知らない人が沢山いる。
しかし、見覚えのあることからこれはさっきの生徒たちだろう。

「なまえさんっ!!?」

そしてこの中で唯一面識のある奥村。
と、その他。
この場は先ほどいた所より明るいので、お互いに顔はばっちり見えている。

理事長、あなた絶対謀ったろう。

「おや、お久しぶりですねエンジェル。この度は聖騎士の称号を賜ったとか。深くお喜び申し上げる」

そんな彼は現状を把握していながら、この場にそぐわない言葉を吐き出した。

しかしその言葉の対象にあたる、高い場所にて絵になるような格好のその本人はその事については反応を示さず、シュラという人物に話しかけた。
私はそれが誰だかは判らないが、おそらくあそこにいる女性の祓魔師に向けてだろう。

「メフィスト。…とうとう尻尾を出したな」

そして格好つけマンはようやく理事長に向けて言葉を発した。
理事長は確かに悪魔で尻尾が存在するけれど、彼は今は弱点となる尻尾を出してはいない。

「お前の背信行為は三賢者<グリゴリ>まで筒抜けだ。この一件が決定的な証拠となった」
「…私は尻尾など出してませんよ。紳士に向かって失敬な」

あ、同じこと考えてた。

もちろんそれが言葉の綾だとは私も理事長も理解している。
しかし実際に尻尾がある相手にその慣用句は向いていない、なんてつまらないことを考えるのは止めにした。

理事長は燐の刀を鞘に戻し、燐に何かを囁いた。
あいにく、内容までは聞き取れなかった。

それにしても、微量の血とはいえもう目が覚めたなんて早すぎやしないか。
それだけ彼の悪魔の能力が強いのか…。
これは確かに、特別な事例だ。

格好つけマンがどうでるのか見張っていたら、結構なスピードで燐に向かってくるのが見えた。

「さがって!」
「!?」

言ったときには既に、彼は燐の首を掴み、剣を首筋にあてていた。
しかしそれを先ほどの女性の祓魔師が刀で弾く。

それから格好つけマンと女性の祓魔師との競り合いになったけれど、すぐに女性の方が押し負けた。
流石に聖騎士には敵わないか。
そう思った矢先、格好つけマンは今度はその女性の首筋に剣を押し当てた。

今のこのゴタゴタの内にこっそり帰ろうかな、と邪な考えが浮かび横に足を一本踏み出す。
誰も私なんかを気にしていない。
ならこの場から去っても、大した差は無い。
コソコソするのは逆に怪しい気がして、大股で堂々と橋から降りようとしていたら、誰かに腕を掴まれた。

「逃がしはしませんよ」
「理事長…!?」

面倒事は嫌いなのに。

「三賢者からの命だ!今より日本支部長メフィスト・フェレスの懲戒尋問を行うと決まった。当然そこのサタンの仔も証拠物件として連れていく!あとそこのお前もだ」
「…ほう!それは楽しみです☆」

パチンと指ひとつで普段のカボチャパンツからコート姿の正装に着替えた理事長。
早業通り越してマジックか、と言いたくなる。

「え、私も!?こんなジャージ姿で!?」
「だから着替えぐらいしなさいと言ったじゃないですか」
「言ってない!だいたいこんな事になるなんて想定外も良いとこなんですけどっ、奥村と燐にも見られるし、パンピーとして過ごす夢くらい叶えてくれたっていいじゃないですか…!」
「そんな面白くない人生は許可できません。さあ行きますよ、ジャージ娘さん」

不服だ。
理事長に腕を引っ張られながら格好つけマンの後をついていく、扉にさした鍵のおかげで一瞬にして法廷に出てこれた。
格好つけマン曰く、オペラ座法廷の「被告人の舞台扉」だそうだ。
…私にはえんもゆかりも無い場所、だったはずなのに。
理事長のせいでジャージで来る羽目に。

ざわざわと話し声が微かに聴こえる中、格好つけマンは燐を蹴飛ばして跪けと言い放った。

「大人しくしていろ」
「!?」

剣を構える格好つけマンに、不思議に思った瞬間、彼は燐のアキレス腱のあたりを、ぶち切った。

「ぎゃぁああ」
「何てことを……!」
「ちょ、何して…っ!」

格好つけマンに飛びかかろうとしたが理事長に腕を捕られた。
どうしてですか理事長、こんなの、人道的では無いでしょう。
確かに燐はサタンの子供だ、でもだからと言って、人の形をしている以上は人間としか認識できない。
それなのに、この人は、よくも平然と。

「今は場所が場所ですから」

こっそりと理事長に耳打ちされた。場所が場所って言ったって、格好つけマンがしたことは明らかに間違っている。

「またあのように暴れられては困るからな。どうせすぐ治癒する」
「相変わらず聖人面して鬼ですね」
「いや理事長ってばそういう問題じゃないでしょ」

こんな人が軽々しくえげつないことをする人が現聖騎士?
全く、悪魔以上に質の悪い人間がよくもまあ聖騎士なんて名乗れるもんだ。
16年間生きてきたけど、人の世界は欲にまみれていて、ある意味悪魔より恐ろしいと思う。

「これより被告人メフィスト・フェレス正十字騎士團日本支部長の懲戒尋問を開廷する!!」

うわ、とうとう始まってしまった。
どうかメフィストさんがまだ理事長でいられますようにと、私には、祈ることしか出来なかった。



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