アマイモンさんは八候王のひとり、地の王だ。
曲がり形にも候補生だけで敵う相手には到底思えない。
燐と闘うともなれば、彼とて炎を使うだろう。
生徒たちは燐が青い炎を使えることを知っているのだろうか、だとしたら彼は炎を出すことに躊躇いはない筈だ。
でももし知らなかったら?
祓魔師の中には青い夜の事を引き起こしたサタンを嫌っている人ばかりだ。
燐がそのとばっちりを受けないと考えるのは非常に難しい。
人はいつだってそうだ。
周りを巻き込んで、本人は悪くないのに、本人の身近な人も攻め立てる。
そうなるのは嫌だろうから青い炎を使えることを隠すのが道理だ。
しかしアマイモンさんに、燐が炎を使わず小手先だけで勝てるわけが無い。
まさか、露見させるのか。
「燐がサタンの子供だってバレたら…メフィストさんだってクビになるかもしれないのに」
理事長に聞こえるように呟く。
聞こえていただろう当の本人は、紅茶を一口飲んでから口角をあげた。
「秘め事が長続きすることは無い。いずれは露見してしまう。要はそれが遅いか早いかの問題だ」
「それはそうだけど、メフィストさんはどうなるんですか」
「…言っただろう、私がいつ裏切るかも知れないのだから信用するなと」
長いこと一緒にいてくれて、色々と面倒を見てくれた人に、今更信用するなと言われる方が苦痛だ。
唇を噛み締めて叫び出したいのを我慢する。
メフィストさんはいつも考えを教えてはくれないけれど、やることは善行ばかりだったから、不安は無かった。
けど今回は違う。
自分の立場を危うくしてまで、しなければならない事なのか。
明るくなったと同時に、燐が青い炎を出したのだろうと察した。
メフィストさんの保身が、今の私の一番の優先事項だ。
「悪魔は常に否定する快楽の求道者であるのに対して、人の営みは中道にして病みやすい」
そのどちらでもない私はどうすればいいのか。
昔から悩んでいたことだった。
「さあて、どちらへ進もうか」
それを私に教えてくれたのは、メフィストさんだったのに。