「寂しい」

シャリシャリシャリもぐもぐ。
私は何時も通りの夕飯、りんご半分を食べていた。
いつもは一人でテレビでも見ながら食べているけれど今日は違う。
なんと理事長とアマイモンさんと一緒だ。
普段よりは賑やかな筈なのに、私の心はロンリーだった。

「なまえさん、その切り方はまさか…。うさぎさんりんごってやつですか」
「そうですよ。アマイモンさんこれ初見ですか?」
「ハイ、ぜひ食べたいです」

普段なら朝夕のごはんを人にあげることは無い。が、今日はなんだか食欲がでしゃばってこないので残りをすべてアマイモンさんにあげた。
掴んだまま渡したら手ごと食べられてしまったが唾液だけで傷は無かった。
一旦自分で掴んでほしかったな。
なにも私の手ごといかなくてもいいじゃないアマイモンさん。

そのままにしておくのも気持ち悪いのでアマイモンさんの服の裾で拭っておく。

「あー寂しー」
「先ほどからどうしました」
「リッチでセレブな理事長にはわかりませんよ、私の気持ちなんか」
「おおかた奥村燐の作ったカレーが食べたいとかそんな理由でしょう」

理事長の言うことは間違ってない。
ただ図星ではない。

「だって、何が悲しくて木の上でりんご食べながら青春の一ページ(カレー作り)を見てなきゃならないんですか…!私もあそこに混ざりたかった!」

カレー作りの様子は一部始終見ていた。
女の子達がどうやって作るか悩んでいるところに、燐が「俺がやるよ」みたいな感じで割り込んで行き、他の人たちが大丈夫なのだろうかという目で見つめている。
それでも、しばらくして出来上がったカレーを食べると美味しかったのだろう。
すごいとかなんとか言ったりなんかして、みんなが笑顔になりほっこりした空気になっていた。
まさに学校のイベント!という雰囲気だ。

そしてそれを見ながらうさぎさんりんごをつくり、静かに咀嚼している私の身にもなってほしい。
蚊帳の外の悲しさがわかるだろうか。
風下にいたおかげでカレーの香りは私の鼻先をかすめ、美味しそうな匂いをおかずにりんごをたべる孤独さがわかるだろうか。
涙がちょちょ切れる気持ちがわかるだろうか。

これは食欲を無くしてもいいと思う。

「混ざりたいなら混ざってもいいんですよ」
「私なんかが混ざったら、あの人達に迷惑です」
「寂しいですねえ」
「寂しくなんか、ないですよ」
「強がっていられるのも今のうちです」

強がりなんかじゃない。
そう返せば理事長はクスリと笑った。
相変わらずのニヤニヤ笑顔なので何を考えているかはわからなかった。

寂しいわけが、無い。のに。
理事長たら何をおっしゃる。



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