ラーメンを食べ終えて器も返した後に、お茶を飲んでくつろいでいたら、チャーシューを奪ってった理事長が手の平を上にしてこっちに出した。
「なんですかこの手は」
その手をぺちぺちと叩く。
意図がよくわからないので理事長の手の上に私の手を置いたらお手のような状態になった。
私が犬か、そんなバカな。
「930円です」
「え、てっきりおごりだと…!ていうか保護者でしょあなた!お昼代出してくださいよ!」
「仕方ありませんねぇ、それなら特別に900円で手を打ちましょう」
「30円!?」
この人こんなにケチ臭い人だったっけ!?
ってか30円って何それ。
それくらいしか保護者としての責任を感じていないと!?
「そんなお金ありませんよー」
「貴女もバイトぐらいしたらどうですか」
ソファーにあったクッションを抱き締めて顎を乗せる。
バイトをしなくてはというのはわかってる。
理事長にいつまでも金銭面で甘えるのも悪いとは思っている、が、
「なかなかいいとこ無くて…。短期でガッポリとか無いですかね?」
「世の中そんなに甘くないですよ。私は甘いの大好きですが」
「兄弟揃って甘党ですか。…ガテン系は中々雇ってくれなくて」
力仕事なら得意なのに。
体質のせいもあってか、一般人に比べたら力は相当ある。
小さい頃から加減の調整をしてきたので、今では普通の人とそう変わらなく見えるが、実は成人男性よりもはるかに上だ。
工事現場とかなんてもうさくさくさくさく働けちゃうのに。
こんなに私にぴったりの仕事が他にもあるだろうか、いや、ない。
しかし雇ってくれない。
「お金が貯まったら私に養育費返してくれるんですか?」
「まさか」
理事長はお金持ちのくせに、お金に貪欲だ。
でも使うべき時とそうでない時を把握しているあたりは流石だと思う。
「そうだ、頼みがあるんですがなまえさん」
理事長がこんなことを言うなんて、珍しい。
しかしこういう時はどうせろくな頼み事では無いのは把握している。
「なんでございましょうメフィストさん」
「アマイモンの見張り役をしてほしいのです」
「…それで930円がチャラになるなら」
チャラになるに決まっているのに。
むしろアマイモンさんに付き合うくらいならこっちがお金を貰ってもいいはずだ。
「いいですよ」
ほらね、どうせそんな事だろうと思ったんだ。