ワイマ共和国。

この国の王は、ただのお飾りでしかない。
国を動かしているのはこの、戦闘技術育成施設を運営しているお偉い政治家達だ。
この国には軍隊というものが存在せず、国民は自分達で身を守らなくてはならない。故に自らこの施設に入り強くなるか、この施設で訓練されたヒトを雇うかどちらかの選択を強いられている。
また、施設は身寄りのない国民を引き取り、訓練させることもあった。
他国との戦争には主にこれらヒトが導入されていた。
理由は簡単、悲しむ者がいないからだ。

施設では力の強い順に番号を付け、それを名前としている。
今現在、一番強いのは壱柚だ。


(今の俺には番号なんて、必要ないのに。)


「みーろーくうぅう!」
「!」


ただならぬ気配を感じ箕六は咄嗟に後ろへと後退すると今まで自分が居た所は凍りつき綺麗な氷の結晶が出来ていた。


「ちッ、外したか。」
「随分な挨拶だな、八槌。」

声の方に顔を向ければまだあどけなさが残る少女が仁王立ちしてこちらを忌ま忌ましそうに見ている。箕六は体勢を調えると少女―八槌は手の平で氷の氷柱を作り口を開く。


「ああ?逃げ出した奴に対しての挨拶なンざ、これで十分だろ?」
「綺麗になったな、その口調を直せばもっと綺麗になるぞ。」
「なッ、てめッ!」
「八、槌!暴力、駄目だよ。」


八槌が氷柱を箕六に投げつけると同時に後ろから少年が走ってくるのが見え、箕六はその氷柱をかわすとその少年に表情を緩める。


「久しぶりだな、七瀬。」
「箕六、さん!戻られて、たんです、か?」
「ああ、でもまた直ぐに出るけどな。」


少年―七瀬は普段の不安そうな表情から一変、嬉しそうな表情になる。箕六は傍に来た七瀬の頭を昔のように撫でてやった。
成長はしたが、やはり二人とも変わっていない。八槌は昔から何かと突っ掛かってきたし、七瀬はいつも不安そうにしていた。


(懐かしい、な。)


七瀬の頭から手を離すとその手の平を見る。自分も、あの時から変わっていないのかもしれない。変わりたいと思って此処を飛び出したが、結局は変わっていなかったのだ。


「そうだ、悪いけど伍郎の部屋は何処だったっけか?」
「ここ、から左に、五つ、先の、ドアが、伍郎さんの、部屋です、よ。」
「そっか、有難うな。」
「けッ、とッととどッかに行ッちまえ。」


八槌に悪態に苦笑しつつも片手振り箕六は七瀬と八槌と別れる。彼らに会うと辛かったことより楽しかったことの方が多く思い出されるから不思議だった。
もしかしたら、過去の過ちを正せるかもしれない。と安易な思いが過ぎってしまう。
教えられたドアの前に立つとノックをする為に手を伸ばすが、中から人の気配はなく不思議に思う。取り敢えずノックを二、三回してみるもやはり返事は返って来なかった。
左右を確認してみるも、気配といえば七瀬と八槌のものしかせず箕六はどうしたものか、と溜め息をつく。


(久しぶりに、やるか。)



箕六は深呼吸を繰り返すとゆっくりと瞳を閉じる。
風が吹く。建物の中とは思えない程、鋭く強い風が箕六を包み込みそしてある方向に流れていった。


(……、見つけた。此処から南西方向辺りか。)


箕六は人の気配を識別する能力に長けていた。
此処を出てから気配を探るなどする必要もなくなりその能力も無意識と化していたが、まだ健在だったらしい。気配を辿り伍郎の元へと向かう。段々とその気配が強くなってきていることから方向は合っているみたいだ。だが、伍郎以外の気配も感じ、箕六は歩みを止めた。







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