平凡な生活が幸せだった。

普通に学校に言って、好きな漫画や小説を買って、

そんな有り触れた生活が、俺にとってこの上ない幸せだった。





キーン、コーン…




いつものように授業の終わりの鐘が鳴り、乱暴に教科書やノートを詰め込めば足早に教室から出る。今日は待ちに待ったゲームの発売日だ。予約までして約半年この日をどれだけ待ち侘びてきたことか。


「あれ、箕六先輩。用事ですか?」
「ああ今日は先帰るよ。また明日な。」


途中後輩に声を掛けられ簡単に会話を済まし箕六は腕時計に目をやる。大丈夫、これならばバスに間に合う。安堵と興奮からかいつも以上に気分が良い。これが幸せなんだ、と箕六は頬を緩ませた。
だが、ふと異様な気配を感じ立ち止まる。見覚えのある、この視線。




――…殺気だ。




ああ、なんでよりによってこの日なのか。
箕六は注意深く辺りを見回す。行き交う学生達はこの殺気に気付きもせずに笑い合っている。当たり前だ。大体これを感じてる方がおかしいのだから。
箕六は舌打ちし、瞼を閉じた。集中し、周りの音を消し、ある気配だけを感じ取る。


「そこか、…わざわざ学校まで来て下さるなんて思ってなかったよ壱柚。」
「勘は衰えていないようですね、安心しましたよ。箕六?」


目の前に現れた茶色。そいつは顔に笑顔を貼付けこちらへやって来た。昔からこいつの笑顔は好きではなかった。人を嘲笑っているかのようなソレは不愉快の何者でもない。腕時計を見ればバスの発車時刻に差し掛かるところだった。
箕六はあからさまに不機嫌な表情をした。


「なに、俺に何か用?」
「おやおや、ご機嫌斜めですか?なら簡単に。貴方に是非やって貰いたい事がありまして、施設に一緒に来て貰えませんか?」


戻りたくない。それが正直な意見だった。だが拒否権などというモノは無い。昔から壱柚の言う事は絶対だった。多分、これからも、ずっと。


「…分かった。」


早く終わらせて、それからゲームを心置きなくやろう、と箕六は決意した。








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