「これ持って行く。使ってちゃんと慣らせば初めてでも痛くねぇから」
「慣らす……」
余り具体的な事を話すと防御体勢に入られる可能性もあったが、一か八かの賭に出る。
「いきなり突っ込むのはそりゃあ辛い。だからこれで中を濡らして少しずつ広げる。男の尻に性感帯あるのは知ってるか?」
「……知識、では」
「そこを弄って気持ち良くしながら広げりゃあ大丈夫だ。俺は前戯も上手いって褒められるぜ」
アルバフィカはそこでまた俯き思案していたが、処女は大概そんなものだ。踏み出す迄の逡巡も愛らしい。
乗り気で股を開くような淫乱は話が早いし性戯も上手い。しかし、処女の純潔はやはり処女だけが持つ物。
それを面倒だと言う輩もいるが、処女に夢を抱く男も多い。俺はその夢を見る中の一人だった。
アルバフィカはワインを一息に煽り干し、袖口で唇を拭った。そして覚悟を決めたように俺と視線を交差させた。
その瞳はやはり緊張を孕んでいる。
「……連れて、行ってくれ」


■ ■ ■ ■ ■


青白い燐光に包まれて岩場に降り立った。
死界へと落ちる穴からは随分離れたポイント。俺が一人静かに思索に耽りたい時に訪れる場所だ。
俺より僅かに遅れ、舞い降りるかの如くに白いボウタイを翻して静かに着地したアルバフィカは、様子を窺うように辺りを見回した。
陽が射す直前のようなぼんやりとした青白い薄暗さ、空は鈍色。俺達を囲む大小様々な岩も歪で、空気はどうしたって陰気臭いが、これでも居心地は良い方だ。
「気に入ったか?死人のベッド」
惚けて尋ねてみると彼はゆるりと口角を上げる。
「薔薇のベッドより浪漫的かもな」
全く生意気な事を言う口だ。
薄水色の髪に手を差し伸ばし一束を掬い取る。常ならばマントでしたたかに打たれるか黒薔薇の生け花にされるところだが、彼は嫌がる風を見せない。
勝利を確信し、今日の卑しい戯れに付き合ってくれる清らかな美人の髪に恭しく口付けを落としておいた。
絹のように滑らかな感触、こんなところ迄男にしておくには勿体ない。
「……マニゴルド」
静かに名を呼ぶ声音は何時に無く甘かった。
本当は何時だって近寄って手を取り合いたいのを耐えているのだろう。それはあの厳しく頑なな拒絶見ていれば判る事。
――だから余計に美しい。
自分の軽薄は自分でも呆れる程。目の前の据え膳との駆け引き遊びに使う胡散臭い台詞ならば幾らだって溢れてくるけれど、この男には馬鹿のように、綺麗だとか美しいだとか、そういう単純な形容しか出来ない。
それだけ、言葉のままの美の体現なのだ。
緩やかに波打つ髪は長く伸ばされていて、その波は余り目立たないものの、風に靡かれると優美な波線を宙に描く。
整えずとも眉は細く形も良い。双眸は水に揺らめく硝子玉のよう。瞳を縁取る睫毛は長く上向き、その輪郭をより際立たせる。
白肌はまるで雪、いっそ冷たく見える程。山型のくっきりとした唇は紅を差し、そこに真珠の粉を乗せたかのように艶やかだ。
独特の鋭角的なラインを持つ黄金の鎧を纏っていても、その肢体の造形美は想像に容易い。鍛えているのは判るが、現実的な肉感より彫像的肉感と言った方が近いのだと思う。
今はその鎧が無い分、肢体のラインが目で見て判り、普段とは違う妖しささえ漂っていた。
彼の容姿は内面をそのまま滲ませているかのように気高く凛として美しい。
不覚にも無意識の内に見惚れていた。
しな垂れかかるように首筋に回って来た腕に情けない程あからさまに肩が跳ねてしまう。
首筋に顔を埋めて、彼は大胆にもそこに舌を這わせてきた。
「……随分積極的だな」
誘うかのような所作に思わず息を飲んだ。
「折角招待をして貰ったからな。余り上手くは無いだろうが奉仕くらいさせてくれ」
常より柔らかな囁きに少し動揺もしたが、折角の機会、恐らくは滅多に、否、二度と無いかもしれない機会。機嫌を損ねるのは得策とは言えないし、例え不器用でも彼からの奉仕ならば興奮する事請け合いだった。
「……是非」
手触りの良い髪を惜しみながら手放し、切り立つ岩にゆっくり腰を下ろした。肉体の世界から携帯して持ち込んだ小瓶は俺の脇に置いておく。
「勃たせてくれねぇ?アルバちゃんの綺麗なお口とお手々で」
他人の衣服を乱すのはそれなりの慣れがいる。自分から腰のベルトを外して前を寛げた。下着を下げるところくらいは不慣れでも出来るだろう。
上目使いで急かすとアルバフィカは妖艶なカーブを唇に描き、俺の脚の間に膝を着いた。
露骨な台詞は非難されるかもしれないと思ったが、腹を括った今となっては気にしていないらしい。
女神のような造形の白い指先が少し遠慮がちに、焦らしているようにも思える程にゆっくりと、下着を引き下げた。ボトムのウェストも引かれる。
全部脱がせたいのかもしれない。その辺りも如何にも初体験らしい。
高さの入れ代わった視線、強請るかのように見上げられて軽く腰を浮かせると、やはり下着ごと引き下ろされた。履いたままだったブーツも一緒に取り払われ、完全に下肢が露出する。
全て剥き出しにするのは些か心許ないが、彼の希望を尊重すれば合意の色はより鮮明になるに違いない。
彼はシャツの下のボタンを外し、裾を左右に分けた。そして観察するかのように俺の性器を眺める。
「……アルバちゃん、流石に見られてるだけは恥ずかしい」
触れもしないまま真剣に見詰められても変な羞恥を煽られるだけだ。俺は確かに破廉恥な男だが、マゾヒスティックな趣味は無い。
一応控え目に訴えてみると「ああ、済まない」と小さく呟きながら漸く性器に手を伸ばしてくれた。
左の掌で掬い上げ、右の指先で性器の形を丁寧になぞられる。やはり観察しているような眼差し、手つき迄実験的だ。
「何でそんなちんぽジロジロ見るんだよ」
本当に気恥ずかしくなってきて、梳きの入ったやや短い側頭の髪を軽く引いて少し責めてみた。
「……他人のを見る機会が殆ど無いので、つい」
「つい、じゃねぇだろ、えっち」
単純だけれど彼らしい理由で返されると、それを嫌がるのも悪い気がして、冗談にして笑うより他は無い。柔らかな髪を弄る事で気を紛らわせる事にした。
指の輪が作られ軽く扱かれ始める。少しぎこちないが、思ったより悪く無いし、何よりアルバフィカが俺の前に膝を着いてその綺麗な指で擦っているという視覚的な効果も大きい。
「そう、上手上手」
触れても嫌がられないのは些か調子を崩してしまうが、やはりこうして触れられれば嬉しかった。
艶やかな髪を撫で梳いて遊びながら、火を付けられる過程を楽しむ。
「……ん、裏筋、擦って。先っぽも」
「了解」
まるで任務のような色気の無い受け応えだが、手は俺の希望通りに性器を弄ってくれる。
親指で裏筋を擦られ、右手で亀頭を揉まれると背筋に心地良い悪寒が走った。性器は徐々に硬度を増して角度を付けてくる。
「確か口でもやれと言ったな」
アルバフィカはぽつりと独り言のように漏らすと、舌を差し伸ばし、裏筋をねっとりと舐め上げた。
「は……ッ…やーらしいの、アルバちゃん」
赤い舌が閃く様はそれだけで煽情的だ。それが丹念に舌腹を這わせてくるから堪らない。



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