「ん、は…ぁ…あッ…や、気持ち、イ…っ…」
無意識の内に口走ってしまった台詞、慌てて唇を噛んでも遅かった。耳元に笑気が掛かり、律動が徐々に早く、深く、強くなってくる。
「や、駄目…ッ…ゆっくり…あ、や、ぁ…!」
たっぷり注がれた潤滑油がぐちゃぐちゃと派手な音を立て、その音に迄興奮を強くしてしまって、右腕を外し自分の性器を漸くの思いで握り込んだ。
童貞の彼より先に達してしまったら、もう顔も合わせられなくなる。馬鹿のようなちっぽけなプライドだけれど、せめてそのくらいは守りたかった。
「ふ、ぁ…ッ……は…ぁんッ!」
絶頂の高い波を予感する度に性器を強く戒めて痛みで紛らわせていると、目敏くそれを見付けたようで手首を掴まれ無理矢理外されてしまった。
完膚無き迄に粉々にするつもりなのだろうか。
「狡い……っ…馬鹿…!」
「どちらが狡いんだ、馬鹿」
首筋に回していた腕まで寝台代わりになっている岩に縫い止められて、また情けなく快感に蕩けて歪んでいる顔を見下ろされる。
アルバフィカの頬も僅かに赤みが注していた。瞳も欲情故か潤んでいて、とても綺麗で。
また涙が溢れ出してしまったが、今度は敢えて泣かせようとしているかのように大きなグラインドをしてくる。
「ひぁ…ッ…あぁあ…!駄目、やだ……っ…イくの、嫌…っ…」
必死に下腹に力を入れて絶頂を堪えるが、それで却って肉筒が絞られ、いよいよ全身が痙攣を始めた。もう絶頂は目の前で、視界が明滅している。
「此処に男を咥えて射精するところ、見せてくれ」
見たいのは射精で無い事は判っていた。視線は俺の顔に落ちていて、もう恥ずかしくて気持ち良くて辛くて訳が判らなくなる。
「や…っ…イく…嫌…ひ…ッ…」
角度を付けて擦り上げてきた亀頭が前立腺を強く刔って背筋が大きく反り返った。
「あ、ぁああッ!」
自分の嬌声が遠い。苛烈な絶頂感が全身に走り、勢い良く精液が迸る。
最奥迄突き刺した性器は絶頂に痙攣する肉壁を十分に堪能し、俺より遅れて、その熱い飛沫を撒き散らした。


■ ■ ■ ■ ■


霊体の受けたダメージは肉体に反映される。
漸くの思いで霊体を戻したものの、そこであっさり意識を失った俺は翌朝緊張感故か明け方に目を覚まし、久しぶりに男を受け入れて足腰にきている身体に鞭打ち先に宿を出た。
アルバフィカにこんなよろよろの俺を見られる事には抵抗があったし、彼も気に病むかもしれないと、ほんの少し、思ったりもした。
その分、宿代は当然置いて来なかった。俺の気遣いはタダでは無い。
身体を引きずるようにして漸く聖域に帰還し、これから十二宮の階段を自分の脚で上がる事を考えてうんざりしながらコロッセウムの石段で一休みしていると、朝も早くから走り込みをしていたらしいエルシドに見付かってしまった。
「朝帰りとは良い身分だな」
昨日の恨みか、或いは積年の恨みか、挨拶も無しに厭味の洗礼を受けた。
「ああ、昨晩たっぷり楽しんで来たからな。童貞ちゃんには出来ないような遊びだが」
見栄、その自覚はあったが、元を正せば俺がアルバフィカに嵌められたのはこの男が原因だ。苛立ちをぶつけるに十分な理由だった。
「……ほう、アルバフィカとか」
エルシドはあかさらまに見下すような目線を向ける。アルバフィカが身体を許す等信じていない、そんな風にも見えた。
「そうそう、凄ェ色気だったぜ。乱れ捲ってもう最高、アンアーンって鳴き捲り」
俺の口からは得意の嘘が乱れ飛ぶ。アルバフィカは吹聴したりはしないだろうから俺の失態はアルバフィカと俺だけの秘密になる筈だった。
「成る程、そうか、良かったな」
途端エルシドが唇を緩め、酷く厭味たらしい笑みを浮かべた。
「お前、声が嗄れているぞ」
――しまった。
瞬間的な動揺に任せて口許に手の甲を押し当て、立ち上がってしまった。途端、腰と関節に響く鈍痛、尻の穴迄疼くように痛み、足元が不安定に揺らいだ。
無意識に歪めてしまった顔をエルシドは鼻で笑った。
「まあ楽しかったなら何より。詳しい事はアルバフィカから聞いてみよう」
頭から血の気が引いた。
「ちょ、待て、アルバフィカが…んな…話す訳ねぇぞ!」
「それはどうかな」
エルシドは余裕の態度で双眸を細める。
「他人の性事情にやたら首を突っ込んで揶揄ってくる破廉恥男を懲らしめてやりたいと思う連中も居るやも判らんぞ」
――昨日、俺は。
「……は…?え、まさか」
「何がまさかだ?思い当たる事があるなら自業自得だと言っておくぞ、マニゴルド」
エルシドは片手を振って背中を向けてしまった。
――まさかの反撃、まさかの裏切り。
玩具にしていた美人と悪友が何時の間にか共闘関係を築いていたなんて想像出来る筈も無い。
「……ち、畜生!肩くらい貸せ!」
掠れた声で背中に叫んでも、堅物の黒山羊は意地の悪さを此処ぞとばかりに見せ付けて、振り返りもしなかった。



END



[*前] | [次#]

>>TITLE | >>TOP 




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -