「ひ、ゃ…ッ…待て、本当…!」
虚脱状態では何の抵抗も出来ない。腹圧も当然掛けられず、齎されるのは肉の擦られる事で感じてしまう疼きのみ。
エルシドのような男らしい顔立ちの奴ならまだしも、こんな女よりも美人な男に組み敷かれる等、プライドが許さない。
ましてやこんな積極的な童貞に抱かれるのはリスクが高過ぎる。無理をされれば裂けるのは間違い無い。
身体を売っていた時は、たった一つのパンを買う金で随分無理をされて何回も酷い目を見た。記憶が俄かに蘇る。
「嫌だ、嫌、痛いの、絶対ヤダ…!」
「気持ち良くしながら慣らせば良いのだろう?騒ぐな、気が散る」
そんな気ならばいっそ散ってくれた方が有り難いのだが、指は教本に忠実であるかのように前立腺を探ってきた。
童貞に尻を好き勝手に使われて射精させられては堪ったものじゃない。
何にせよ、とにかくアルバフィカに尻を使われる事自体、俺の選択肢には無かった。
「嫌、気持ちイイのも駄目……ッ…あぁ!」
あっさりその場所を見付けられて声が派手に裏返った。
「注文が多い。もう聞いてやらん」
勝手にも程がある。
「ひ、は…ッ…あ、やだ、嫌…ぁ、あ…っ…」
それでも慣れた身体は否応無しに反応してしまう。前立腺を容赦無くごりごりと擦られて、漸く止まっていた涙がまた溢れ出した。
普段女役をやる時でも自分で後孔を広げるし、騎乗位でリード権も譲らないのに、動けないのを良い事に股を大きく開かされて後孔を弄ばれるのは不本意、屈辱以外の何物でも無い。
しかも、それでしっかり気持ちが良いのだから本当に泣きたくなる。自分の節操の無い身体を生まれて初めて後悔した。
「存外可愛い声で鳴くのだな」
そんな追い討ち迄掛けられ、二本目の指が刺さる。
「はぁ…あ、んっ……煩い…っ…ひあぁッ!」
あろう事か、指が後孔の浅い部分を大きく開き、小瓶の口を直接押し当てられ、中身が空になる迄潤滑油を流し込まれた。
冷たい液体が体内を逆流してくる感覚には当然慣れていなくて、腰ががくがくと震えた。
揶揄された声を堪えたくても、それがままならない。先迄散々性器をなぶられていたせいで、快感を受け入れる体勢が既に整ってしまっている。
存分に濡れた肉襞を無遠慮無な指に掻き回されて頭の芯が痺れた。萎える暇も与えられないまま性器も完全に勃起して、指の抜き差しに合わせて先走りを吹き出す始末。
「や…っ…も、嫌…ぁあ…ッ…」
涙でぐちゃぐちゃに歪んだ顔を綺麗な男に見下ろされ、何故かそれにも興奮してしまった。
「流石に慣れているな。もう随分柔らかい」
それは彼が強引に引っ掻き回しているせい。慣れているのは事実だが、だからこそ身体の防衛本能が性急に働いている。
三本目の指を埋め込まれて漸く身体に力が戻っているのに気付いたが、今度は性感の大波で自由が利かなかった。
せめて顔を隠そうと重い両腕を持ち上げたが、彼の左手に両の手首を纏めてあっさり捕えられ、結局みっとも無い全てを曝す羽目になる。
「……もう良いか」
すっかり蕩けた肉筒から指がずるりと引き抜かれ、それにさえ身体が戦慄いた。
片手で器用に下肢の衣類を寛げているのを恐る恐る見ていれば、下着を下げた途端に飛び出る勃起、そこばかりは他の男と変わらないグロテスクな形状で身震いしてしまう。
「汚ねぇ!キモい!グロい!」
精一杯けなしてやるが、アルバフィカは却って気を良くしたように眦を緩めた。
笠の張ったそれが後孔に押し付けられて、流石に緊張感が増す。
「……お前、絶対、絶対、今度は犯すからな…!」
自分でコントロール出来ない挿入の瞬間は怖い。どうされるか判らない。
きっとアルバフィカはそんなに酷いようにはしないとは思うのだけれど、彼自身経験が無いのだからやはり未知数で――。
アルバフィカはそんな俺の怯えに気付いてしまったようで、身体を前掲させ目許から頬に掛けて、甘い口付けの雨を降らせた。
「畜生……っ…本当覚えてろ」
散々恨み言を零した唇にも掠める程度に口付けされて、掴まれていた腕を半ば無理矢理振り解いて首筋にしがみついてやった。
「可愛いな」
また揶揄をされて酷く恥ずかしかったけれど、彼の体温に触れていると、少し、ほんの少し、恐怖が和らぐ気がした。
アルバフィカは肩で息をしている。
恐らく、耐えて、いるのだろう。
――俺が、怯えているから。
こんなところ迄きて気遣われたら俺の立場が無い。
「も……良い、から…っ…」
「……何が」
アルバフィカは俺の側頭部の髪を丁寧に丁寧に撫でている。彼のそれに比べれば硬くて傷んでいて手触りの良い物ではないだろうに。
首筋に回す腕に力を込めて大きく息を吸い込む。
「……お前の童貞、貰ってやるよ、馬鹿」
そんな言い方しか出来ない自分の臍曲がりが嫌になったが、アルバフィカは少し嬉しそうに目許を緩めてくれた。
意識的に下肢の力を抜く。ゆっくりとその切っ先が内側に潜り込んできた。
「は……ッ…ぁ…」
やはり自分の意志による挿入でないと緊張して下手に意識が集中してしまう。細く息を吐き出そうとしても途中で引き攣れて、その度に彼の性器を強く締め付けて、これでは彼も痛むかもしれない。
「マニゴルド……」
けれど、耳元で名前を囁く声音の甘さは変わらなかった。
彼は慎重に、気遣い露わに腰を静かに進める。
いっそ一思いに突き刺してくれた方が、こんな複雑な、良く判らない、らしくない、甘ったるい気分にならなかったかもしれないのに。
亀頭部を飲み込み切ると少し楽になる。前立腺に擦れるようになれば身体は本能的な快感に支配されるのが常だ。
羞恥も何も無くなる、大丈夫、と自分に言い聞かせていたが、そこを剛直が擦り上げた瞬間、馬鹿のように背中が跳ねた。
「あっ…く、は…ッ…」
快感、それは間違いない。なのに、それは普段感じる物より遥かに強かった。
――きっと、俺が勝手に、アルバフィカに抱かれている事を意識してしまっているから。
「お前、本当に……敏感、というか……これが普通なのか?」
気にしていた事を指摘されて耳迄熱くなった。
「……ッ…普通、だ、普通……ん、ぁ…は、ぁあ…」
肉が性器に絡み付いていくのが判る。好きで好きで堪らないといった風に性器に吸い付いて、搾るような蠕動を始めていた。
体内の蠢きを抑えようと必死に腕に意識を集中してしがみつくが、腰が進んで肉筒を割り開かれる度に快感の電流が腰から頭に駆け上がって、腕の力が抜けそうになる。
「……柔らかいのに、絡んで、きつい」
「煩い…ッ…ん、ぁあ…は、ぁ…っ…」
漸く根本迄埋め切ったらしく彼が肩で大きく息を吐き出す。
最悪な事に挿入だけで身体は絶頂に届きそうな程高ぶっていた。性器はだらだらと先走りを垂れ流していて、脈に合わせて震える。
「……まだ、動く、な…よ…っ…」
今動かれたら直ぐに射精してしまいそうで、訴えてはみるが、声音が砂糖のように甘かった。
「……悪い。耐えられない」
対し、アルバフィカの声は常より低く押し殺した物。彼も相当感じているらしいのは察せられるが、そんな事に頓着出来ないくらいに俺の方が危機的状況だった。
「ひぁ……はぁ…っ…!」
浅く引かれて勢い良く突き刺される。その律動に肉襞が酷く悦んで、ぎゅうぎゅうと締め付けてしまい、より摩擦感が強まった。



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