美女は突然ベッドを降りた。正に一糸纏わぬ生まれたままの姿で、だ。
咄嗟の事に動転したせいで正面は見逃したが、後ろ姿、白い尻は見る事が出来た。
腰高の体型、ウェストはそこまで細くはないが脚がすらりと長い。
尻も期待した程のボリュームこそないものの、形の良い小尻だった。
大腿はむっちりと肉が付いていて、噛んだらきっと最高な気分を味わえるに違いない。
背は女性にしては高い。恐らく百七十を少し超えている。シュラも長身だから、そういう血筋なのだろう。
美女は姿見の前に立ち、自らの身体を眺めているようだった。
「……き、君。ふ、服は着た方が、その、良いと思うのだが」
わなわなと震えている美女の背中に、勇気を出して若干控え目に声を掛けてみると、美女は振り返った。美しいが鬼のような形相、迫力。
大きな乳房を弾ませながら俺に駆け寄り、突然胸ぐらを掴まれた。
「アイオリア、どういう事だ!」
それを訊きたいのは俺の方だが、眼下の乳に完全に目を奪われてしまう。
魔鈴も胸は大きいが、聖衣や革の胸当ての姿では些か見応えに欠ける。
アテナの胸は意識して見ないようにはしているが、流石は女神、谷間まで素晴らしい。
しかし、美女の胸は魔鈴よりも、女神よりも、質量があった。或いはやはりGカップだと確信を深める。
それ程の巨乳、ぷくりとした乳首は見事な赤だが、乳輪の色は淡い。
「貴様、何を悠長に見ている!」
不覚にも美女の飛び膝蹴りを避ける事は叶わなかった。みぞおちに深々とめり込み息が詰まり、うずまくりそうになったが、美女の両腕に上体を支えられて座り込む事すら出来ない。
「い、いや、あの、決して、その、見ていた訳では」
「いいから説明しろ、愚か者が!」
美女の剣幕は凄まじい。まるで刃物を首筋に宛てられているかのような、殺意すら感じる。
「俺は何も!何もしていない、誓って!」
懸命に叫び返すが「嘘を吐く等言語道断!」と更に膝蹴りを喰らった。
「本当だ、本当に、何も!何一つ疚しい事はしていない!シュラが、シュラが!」
「この期に及んで見苦しい!」
「信じ、て、くれ!この悪戯を、企ん、だの、は多分、シュラで!」
「俺が何故こんな悪戯等企むのだッ!」
下腹に、脇腹に、美女の強烈な飛び膝蹴りが容赦なくめり込み、最早呼吸がままならない。
しかし、俺を蹴る度に不規則に揺れる胸だけは、意地で眼を開いて見逃さなかった。


■ ■ ■ ■ ■


美女はシュラのシャツを羽織り、不機嫌そうに眉を顰めながら食後の珈琲を飲んでいる。
シュラの邸宅に女性物の服は当然ない。侍従に声を掛けてみたものの、長身で胸囲のある美女に合うサイズがなく、侍従は急ぎ街に降りて美女の服を買いに行ってくれているところ。
下着もないので、当然美女の怒りは治まらないが、それでも先よりは随分落ち着いてくれた。
『彼』自身の食い意地の悪さに救われた、とも言える。
「……服、届いたら、兄さんとサガに相談しよう、な?」
恐る恐る口を開くと、凛々しい三白眼に睨まれた。
「俺が女になったと知れたら良い笑い物。特にデスマスクとアフロディーテには内密にしたいが、如何せんサガの元には口の締まりの悪い馬鹿が居る」
暗にカノンの事を言っているのは判る。
「だが、教皇に相談も嫌なのだろう?」
「当然だ。弛んでいる証拠だと半殺しにされ兼ねん」
俺を半殺しにする勢いで飛び膝蹴りを繰り返していた人間の言葉とは思えないが、可愛いプライドが見え隠れしているのが微笑ましくて、つい唇は緩んだ。
美女の正体は、シュラ自身だった。
原因は不明。気付いたときには何故か性別が変わっていた。
考えられるのは、ペルセウス星座の聖衣、メデューサの盾に代表されるような呪いの類いだった。
シュラは過去、サガに従って反乱に加担し、ハーデスとの聖戦時もハーデス側に与した風を装った男。故に、黄金聖闘士に難しい討伐の任務が下る時、率先してその任務を請け負う。
それはデスマスクとアフロディーテも同じだった。
サガは今、次期参謀長としての引き継ぎに追われ任務に赴く事は殆ど出来ず、そのせいか、サガもこの三人に良く任務を命ずる。
故に、時折、三人は呪いの類いを受けて帰還する事があった。
実質的に権力の一線から退いた教皇シオンは、俺の兄アイオロスを次期教皇に指命して、聖域の最大権力は今、兄の手中にある。
しかし、兄もサガ達の気持ちを汲んでか、この三人に難しい任務が度々下るのに特に反対もしなかった。
それに少なくない不満を覚えているのは俺ばかりではない。ミロも難しい任務こそ受けたいと良く騒いでいる。
三人の負担は想像に余りあった。このような一目でそれと判る呪いが発現したとあっては尚更の事。
「とは言え、俺だけで呪いの類いを解除するのは難しいと思うのだが」
「判っている。お前もアイオロスの補佐で忙しい身、迷惑を掛ける気は毛頭ない。自力でどうにかする」
「一人では無理だ。まして聖域は女人禁制、正体を明かさず単独で調べ物が叶う筈もない」
「するより、ない」
シュラは溜め息混じりに呟いて肩を落とした。
シュラだと判っていても女性の身体のせいか、どうしても妙な気分になってしまう。
彼は決して女々しい男ではないし、性根も座っていて実力も勿論兼ね備えている。
ミロのように猪突猛進なところもなく、デスマスクのように無謀過ぎるところもなく、カミュのように慎重過ぎるところもない。
現在動ける黄金聖闘士の中では寧ろ仁知勇のバランスの抜群に優れているのが彼だ。
俺が護る等と息を巻くのも馬鹿らしいのだが、今、目の前で彼が悩んでいるとやはり放ってはおけない。
今は尚更にその思いが強かった。
「俺が上手くやる。シュラは無理に動くなよ」
「構うな、俺は自分で」
顔を上げ、テーブルに身を乗り出す彼の胸が大きく上下に弾んだ。大きな乳房は下着のないせいで、兎に角良く揺れる。乳首の形もふつりと浮いていて、流石に目のやり場に困った。
暫く固まっているとシュラは呆れたように息を吐いた。
「……アイオリア、お前、この胸がそんなに気になるのか」
「え?」
慌てて目のやり場を胸から彼の顔へと移す。
「お前、朝からずっと胸ばかり見ている」
「あ、いや」
そんなに胸ばかり見ているつもりはないと言い訳をしようとしたら、彼は左腕を、胸を隠すようにして身体に巻き付けた。
けれどそれは逆効果、乳首こそ完全に隠れたが腕が乳房にめり込んで肉が盛り上がり、却ってその大きさが強調される。
シャツの胸元から覗く深い谷間も何とも誘惑的だった。
「確かにこんなみっともなく無駄に肉の付いた胸では気になるのも判るが」
無駄等一つもないどころか素晴らしい、俺好みの女体だとは流石に言えない。尻がもう少し欲しかったのは事実だが、それをカバーして余りある胸と大腿だ。
「……その、余り、見ないで、欲しい」
ぽつりと付け足された言葉に口許が緩み頬が少し熱を上げた。
「何だ、お前、その顔」
シュラも僅かに頬に朱が走っている。
「……いや、シュラよ」
俺は咳払いを一つして真顔を作った。
「確かにな、確かに今のシュラは女だが、俺はシュラの裸は見慣れている。女の胸も魔鈴のお陰で見飽きた。だから格別胸ばかり見ているつもりはないし、シュラの方が意識し過ぎなんじゃないか?」
苦しい言い訳だが、ふしだらな男だと罵られるのは流石に困る。
これでも俺は聖域内では清廉潔白、誠実で純朴な男として通っているのだ。
長らく逆賊の弟と罵られ迫害を受けて来た身、イメージ前略は大切だと十分理解している。
色遊びが好きだと露呈しようものなら俺が今まで聖域で耐え、慎重に慎重を重ねて培ってきたイメージが大破してしまう。
「な?」
爽やかだと定評のある笑顔は抜かりなく作れた。
シュラは睨むような、けれど、何処か頼りなげな視線を俺に向け、唇を引き結んでいたが、段々ぎこちなく俯いていく。
そんなしおらしい所作は余り彼らしくなかった。首を傾げて影の落ちる彼の顔を見ようとして気付く。
サイドの髪から覗く耳が真っ赤になっていた。
「……あ、図星、か?」
「違う!意識等していない!」
シュラは途端、椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がったが、右腕までも胸を隠している。
普段彼の機微は少し判りにくいのだが、こんな事態で混乱しているのだろう、珍しく判りやすい。



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