「……それが不思議とそんなに寂しく無いんだ、俺」
ミロは双眸を細めて少し笑う。意外に思えた。ミロは本当にカミュと親しかったから。
強がっているのかもしれないと一瞬思ったが、ミロの緩い笑顔は実際吹っ切れているかのように明るい。
俺が女々しいのだと恥じ入ったが、ミロは逆に俺を励ますかのように背中を軽く叩いてきた。
「気遣いは感謝してやるが、シャカの念仏聞いたりアルデバランと早食い競争したり……あー……お前と、喧嘩したり?俺の回りは何等かんらと愉快だ。だから物は考えようってな。まあ、食べろよ、林檎。握り飯じゃなくて不満だろうけど」
思わず目を瞬かせてしまった。ミロはしまったとばかりに顔を歪ませ、眉間に深い皺を作り何故か再び俺を睨み付けた。
「うちの侍従は料理が上手いんだ日本の握り飯なぞ毎日食べられるぞ羨ましかったら今度食べに来ても良いからな明日辺りどうだ」
怒ったような口調で早口に巻くし立てて来て、意味を把握するのに数秒掛かった。
思わず神妙な顔になってしまう。
「……明日、か」
「……うむ、明日、だ」
ミロはまた視線を下方に戻して緩く小首を傾げ、今度はゆっくりと息を吐き出した。
「……本当に寂しくは無いんだよ。俺はきっとあの人……あの人達、とは違うのだと思う」
ミロの言葉はぐちゃぐちゃで、酷く不器用だった。
けれど、何と無く、ぼんやりとではあるが、言いたい事は判るような気がした。
シュラの厳しい叱責が聞こえている。
その声は真摯だけれど与えるばかりで、誰も、何も、受け入れていなかった。まるで、欲しがる事を禁じているかのようにも思う。
貰った林檎は赤く熟していた。一口噛る。甘酸っぱい。
――どんなに優しくしてくれていても、彼程俺を突き放している人は居ない。
酷く漠然とした、曖昧な、空虚。



END



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