排泄器官である後孔、そこには太い棒のような物が埋め込まれていた。
持ち手と思しき部分は黒、拷問の道具なのかもしれなかった。
――けれど。
白と黒は見事な対比だった。
祭壇に捧げられるに相応しい、正に神への供物。
卑猥に見えるが同時にとても美しく目に映った。
俺ははしたなくも彼の艶やかな姿に見惚れてしまった。
その間、俺の抑えていた気配は揺らいでしまったらしい。
「……誰、か…っ…居るのか……」
シュラが押し殺した声を発しながら顔を上げ掛け、俺はまた慌ててしゃがみ込んだ。
心臓が壊れそうな程に早く脈を打っていて、その脈拍が直接頭に響いているかのようだった。
気付けば股間が熱を持っている。布を押し上げる程ではないが、明らかに硬度を増していた。
――どうしよう。
救うべきだと思う反面、あんな姿を誰かに見られたら屈辱以外の何物でもない筈だとも思う。ましてや俺は逆賊の弟で、彼にとり弟弟子のような存在でもある。
――どうしよう。
脈拍が割れんばかりに頭に響いていた。
「……ッ……誰、だ…」
シュラは懸命に声を押し殺している。第三者の気配を確信しているのだろう。
俺はその声に急かされるかのように、熟慮しないまま立ち上がり、足音ばかりは忍ばせて正面の扉に回っていた。
開け放たれた、その扉に立つ。
祭壇に捧げられている麗しい供物と視線が交差した。
「……アイ、オ…リア…」
シュラの紅潮した目許は一気に血の気を引いていく。
双眼を見開いていたが、数瞬の後にその顔ごと逸らされ、瞳は固く閉ざされた。
掛けられる言葉はなかったが、俺の脚は勝手に歩みを進める。
「……来るな…!」
突然の制止は悲壮感を帯びていた。
「来るな…ッ……来ないで、くれ……頼む…から…」
もう俺は足音を殺してはいなかった。一歩一歩、距離を詰める度にシュラの声はか細くなり、呻きに近くなる。
俺は祭壇への階段を上がり、とうとう彼の前に立った。
肩は小刻みに震えていて、常の真っ直ぐな力強さは無い。
下肢を見下ろせば彼の勃起が改めて見て取れた。
先走りが滲んでいるようで、亀頭の割れ目を隠す黒革の一部が変色していた。
「……シュラ」
俺の声は動揺露わに掠れている。喉が酷く渇いていた。
開くよう固定された股の奥から不自然に突き出た太い棒のような拷問具は、後孔の収縮に合わせて微細な動きをしている。まるで一つの生き物のようだった。
後孔は異物を排出しようとしているようだが、股に掛かる縄がそれを妨害していた。
――あの男はこれを押し込んだのだろうか。
文官の後ろ姿、その所作を思い返す。深く考える前に手は伸びていた。
「……っ…アイオリア……!」
責めるような声音で呼ばれたけれど、俺の手はその拷問具の持ち手を掴み、軽く押し込んでいた。
「ひ、ぁあッ!」
瞬時に彼の声は甘く裏返り、首輪の嵌められた白い喉が曝される。亀頭に掛かる黒革は呆気ない程簡単にその染みを広げた。
「……シュラ、これ、何」
後孔にこんな太い物を刺されて何故勃起しているのか判らなかった。
埋め込むと彼は酷く艶めいた甘い声を響かせる。
「く、ん……んん…ッ…」
シュラは唇を白くなる程に噛み締め、首を左右に振った。その表情は切なげで今にも泣き出しそうにも見える。
「……シュラ、教えて」
頭が空っぽになっていた。目の前の彼の淫らな美しさに捕われて、持ち手を握ったまま、拷問具を押しては引くのを繰り返す。
「は…ぁ…ッ…駄目だ、アイオリア…っ…駄目…あ…ぁ…!」
喜悦の声音を堪えようとしているらしいが、それの押送をする度に高く掠れた喘ぎが漏れ出た。
性器全体もひくひくと揺れていて、本当に、本当に気持ち良さそうに見える。
持ち手を押さえていた縄が外れたけれど、構わずにその太い棒を抜き差しした。後孔の赤い肉襞が絡み付いて捲れてしまうのが酷く卑猥だった。
得体の知れない拷問具がどんな形をしているのかぼんやりと気になって一息に引き抜いてみると、シュラは背筋を反らして全身を戦慄せた。
それは男性器の形を模しているようだった。何かの液体が塗り付けられているようで、安っぽい白の表面は燭台の火をてらてらと反射する。
一歩引いて後孔を眺めれば、完全に閉じ切れていないのが一目で見て取れた。小さく開く口が赤く濡れた粘膜を覗かせていて、中がうねるように蠢いている。
中に戻した方がきっとシュラは気持ち良いのだと思ったから、改めてその太い切っ先を後孔に宛がった。
「…やめろ、嫌……ッ…!」
シュラは否定するばかりで何も教えてくれない。
苛立ち紛れに黒い持ち手の根本迄、一気に埋め込んだ。
「あぁああッ!」
びくり、びくり、と白い肢体が痙攣して、反り返った性器がまた左右に揺れる。
「……シュラ…」
俺の下肢は興奮を露わに布を押し上げていた。
シュラもそれに気付いたのか、息を荒げながら恐る恐るの体、熱っぽく潤んだ目で俺を見上げる。
シュラからは男女の性交しか教えられていなかったけれど、今この瞬間で、男同士の性交の方法も判ってしまった。
シュラが八つの時にあの男に組み敷かれ犯されていたのも知ってしまった。
酷い、そう思いながら、俺は、狡い、とも思う。
シュラは再び目を伏せて、肩で乱れた息を整えようとしていた。
「……し、たいのか…」
小さな囁きは不意打ちだった。
「アイオリア……したいのか…」
シュラの問い掛けは吐息混じりで切なげではあったけれど、何処と無く機械的で淡々としていた。
俺は黙してその顔を見下ろした。
必死に涙を堪えているような潤んだ双眸は黒みを増して濃緑に輝く。その瞳には俺を責める色は無かった。けれど、俺を受け入れている風も無い。
――肉欲の解消、ただそれのみ。
陽に焼けない白肌は薄赤く染まり、表情には苦悶と喜悦の色が複雑に入り交じっていた。
男同士の性交の仕方を知らなかった俺は、シュラと身体を繋げるのを考えた事はなかった。
ただ、見たいと、彼の情欲に堕ちた姿を見たいと強く願っていただけ。
今、彼は身動きもままならず、受け入れる場所を開かせている。
無理矢理身体を繋げる事も出来るのだとは思う。
彼は後孔で性感を得ているようだから、きっと射精迄至らせる事も出来る。
誘惑は強い。抱けるものならば抱いて、自分の物にしてしまいたい。
――卑怯だ。
そんな奪い方をしても、きっと彼は俺の物にはならない。
彼はこんな風に犯されていても純潔で美しかった。
「……ごめん……シュラ…」
今更ながらに彼を弄んでいる事、彼の美しい姿に欲情している事、その罪深さを思い知る。
俺は握っていた拷問具をゆっくりと引き抜いて床に転がした。彼が小さく息を詰めるのが、もう苦しみ故のそれにしか聞こえなかった。
これは最低の行為だ。謝って許される事では無い。
左手を振って拳圧で空を裂き、彼の手首と足首を拘束する縄を断った。
もっと早く助けなければならなかったのに情欲に負けた自分が情けなかった。
シュラは苦しげに眉を寄せて解かれた縄を払い落とした。
手首と足首、大腿にはくっきりと痛々しい鬱血痕が残っている。彼はその手首を摩りながら少しずつ膝頭を寄せた。
胴を戒める縄は手足のそれとは違う縄らしく、改めて断とうと腕を上げると、その腕を彼に捕えられた。



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