揶揄われているのは判る。けれど余り悪意は感じず、少なくとも嫌われてはいなさそうだが、頭が冷静に働かなくて、ああ、もうこの男は本当に凶星に違いないだとか、どうでも良い事ばかりが頭を巡り、考えるのも嫌になって彼の肩を叩いたら、鎖が跳ねて天罰とばかりに俺の腕が打たれた。
「本当に可愛い。頭から喰いたくなる」
笑気混じりの冗談、やたら発達した彼の牙のような犬歯が耳朶を噛んだものだから「ひ」と間抜けな掠れ声を上げてしまった。
「お前が小便を漏らしたせいであっちのベッドは暫く使えん」
耳元に掛かる息はまだ笑いに乱れていて、こんな屈辱はかつてない筈なのに、彼の腕が苦しいくらいに抱き込んでくれるから、心臓が壊れてしまったかのように早鐘を打っていて、訳も判らない内に俺の両腕は彼の肩に縋っている。
「狭いが今日から此処で一緒に寝ろ。怪我人を床に転がす訳にはいかないしな」
「……治ったら、床か?」
馬鹿な事を聞いてしまったと言った傍から後悔したけれど、彼の温もりと重み、それが余りに心地良くて、顔の熱も酷い心拍数も、恥も屈辱も後悔も、何処かに溶け出してしまうようだった。
「……どうせもう暫くは治らんだろう」
端的に「当たり前だ」と返ってくるかと思ったのに。
「治ってからの話は治ったら言え、馬鹿」
話してみないと判らない事も多い――本当に馬鹿のような再確認をしていたら、また耳朶を緩く数回噛まれた。
緩く後ろ髪を掴もうとして彼の首筋に触れた。
彼も、少し、熱い、ような――多分、俺の願望。



END



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