「頼……っ…お願い、だから…ッ…あ、ぁあっ…!」
ぐりぐりと容赦無く回される玩具に肉が悦び吸い付いてしまう。
涙がぼろぼろと溢れ出しても、彼は体内を観察しているかのように玩具の挿入角度を変えては内壁を刔り、襞を捏ね回すのを繰り返した。
性器は萎える事のないまま再び先走りを零し始めている。
「デフテロス……ッ…」
――こんな玩具で遊ばれ、はしたない体内を覗かれて。
「何だ」
彼の関心はやはり身体の内側にだけ向いているようで顔を上げてもくれない。
彼が愉しめているのなら、我慢するべきなのだろうが、羞恥や屈辱だけではなくて――寂しい、切ない。
腹に掛かる鮮やかな髪のひと房に漸くの思いで右の指を絡ませた。
――そんな事を伝えられる筈もない。
「何だよ」
二度目の問い掛けと共に彼は顔を上げてくれたけれど。
「……何、でも……ない…っ…く…ぅ…」
鳴咽混じりにそう言うしかなかった。途端彼が不愉快そうに唇を歪ませるのが判って、また失敗をしたと思った。
――もっと上手い言い方が出来れば良いのに。
彼は暫く動きを止めて沈黙していた。そしてゆっくりと小首を傾げながら仮面に手を掛け、ほんの少し瞳を覗かせた。
「……怒らないから言え」
既に口調は苛立ちを孕んでいて彼の不機嫌は明らかだったが、透き通るような群青の瞳が見えているだけで随分違う。
奇妙な、強いて言うなら安心感に近い、そんな穏やかな思いが胸を締め付けた。
その胸の苦しさで、折角見る事の叶った瞳とさえ視線を交わしていられなくなる。
「……何、でも」
「ない訳ないだろう。恥ずかしいから嫌なのか」
矢継ぎ早に問い質されて顔を腕で覆い隠そうとすると「隠すな」と叱責された。
仕方なく目線を逸らすのみにして言葉を探してみるが、沈黙の時間と彼の視線に耐え切れない。
「……恥ずかしい、から、嫌……だ…」
結局恐る恐る彼の言葉の通りを繰り返した。
「お前のそういうところが気に入らない」
それなのに間髪入れずにばっさりと切り捨てられ、意味もなく――本当は意味があるのかもしれないが、新たな涙が滲んでしまう。
「……だったら……どう、言えば……」
酷い、と責めたくなるのは俺が彼に甘えているせいに違いない。
顔を見たいだとか、抱き締めたいだとか、もっと話したいだとか、傍に、居て欲しいだとか、気付けば彼に求める事が増えていて、俺も大概身勝手に彼を望んでしまっている。
「普通に言いたい事を言いたいように言え」
「……言っ、た」
「目を見て言え」
普段目許を隠している彼にだけは言われたくない事だが、漸くの思いで潤んだ視界に群青を捉える。
彼はそれを認めると仮面をニ、三度振る仕草を見せ、唐突にそれを床に放り捨てた。
また、何かに胸が軋む。
「言え」
先の台詞を繰り返せば良い、ただそれだけの事が出来なかった。
また叱られる。不出来だと思われる。
彼の本当に怒り出す前に彼が満足する何かを言わなくてはならなくて焦燥感から唇を開くが、正答が紡げない。
「……デフテロス」
これが精一杯。
「だから何だ」
「デフテロス」
馬鹿のように繰り返して髪を握り締めると、彼はゆっくりと視線を逸らした。
「……デフテロス」
また乱暴をされるのだろうか。或いはそれすらして貰えないのだろうか。
「……デフテロス」
「煩い」
いつものように否定されたが、黙れという命令ならば俺にも出来る事だった。
「馬鹿か、お前は」
吐き捨てるように言われても返せる言葉はない。
事実、俺は愚かだ。彼に会ってから頭の悪さに拍車が掛かったようにも思う。
「何か言え!」
噛み付くように怒鳴られて肩が跳ねた。
「……ぁ……済ま、ない…」
「……違う」
彼は項垂れ低く唸ったが、数回頭を振ると再び俺を睨み据えた。目許が僅かに紅潮しているのは怒り故か。
「何か、言えよ」
拗ねた口振りはまるで強請っているかのようで彼らしくなかったけれど。
「……可愛い」
勇気を振り絞り直感的に感じた事を言葉にした。
「馬鹿野郎!」
また盛大に怒鳴られた。
何を言っても結局駄目なのだと改めて痛感した瞬間、不意打ちに彼の唇が頬を掠めた。
「他の、事を」
今度は控え目に、耳元で囁かれる。
彼の心の緩急が全く判らなくて、髪を伝って恐る恐る首筋に腕を回した。
避けられる事はなくて、それに少なくない安堵を覚える。
「……デフテロス」
「何だ」
言いたい事、言える事を必死に探して、何も見付からなくて結局馬鹿のように彼の名を繰り返し呼ぶ。
「……デフテロス……」
「何」
先を促しながら耳朶を甘噛みされて蓄積していた性感にまた火が点った。
「……デフテロス」
首筋に回る腕に力を篭めると彼が微かに笑った気配がした。
「エルシド」
彼の穏やかな声は酷く寂しくなる。胸が、苦しい。
「抱かせろ」


■ ■ ■ ■ ■


命じられた通りにはいかなかったけれど、散々玩具で内部を割り開かれていたせいか、昨晩程の痛みもなく彼を受け入れる事は出来た。
待ち侘びていたかのように彼の性器に肉が絡み付いてしまうのは、自分の意志では本当にどうにもならない。
逞しいその形状をはっきりと知覚して、身体がそれを必死に覚えようとしているのではないかとさえ思う。
傷が治れば俺は聖域に戻る。戻らなければならない。そうなれば彼と会う機会等殆ど皆無に近いだろう。
彼と共に居られるのはほんの僅か。
彼の事を知りたいけれど何から話せば良いのかも判らないから、今この瞬間に知る事の出来る物を逃さずに記憶するのは、俺の出来る最善なのかもしれなかった。
「……食いつきは相変わらずだが多少柔らかくはなったな」
俺の短い前髪を梳き上げるのを繰り返しながら彼はまた意地の悪い事を言う。
「昨日よりは、まあ、マシ、だ」
彼の望むような性戯の上手い女代わりにはなれなくても、少しでも彼が良いと思ってくれるようにはなりたかった。
「……練習、する」
彼の背中の服を握って答えると彼は途端双眸を瞬かせ、数秒沈黙した。
そして枕元に置かれた硝子の玩具と黒革の貞操帯へとゆっくり視線を流す。
「……それ、毎晩嵌めれば緩むぞ」
「……する……」
そうすれば彼は俺を使ってくれる。俺は彼を抱き締められる。一緒に居られる時間が増える。
「ちゃんと、する、から……デフテロス……」
下心を正直に伝える勇気は持てなくて、代わりに彼の首筋に両腕を回し、身体を少し引き寄せてみた。
けれど彼が眉間に皺を作ったから即座に腕の力を緩める。
「……その練習、見せろ」
顰め面だが気分を害した訳ではなかったらしい。目許に優しい口づけが落ちた。
「……見、せる、のは……」
「お前は物覚えが悪い。下手過ぎる。指導が必要だろう?」
指摘は尤もだが、また身体の内側を見られるのは辛い。
「返事は?」
短い命令と同時に勃起し切った性器の先端を指に強く弾かれ、痛覚伴う快感に腰が派手に跳ねた。
「ぅ、あぁ…ッ…!」
ぐちゃりと肉が音を立て、突き刺さった彼の性器が角度を変えて内壁を刔る。
頭が真っ白になる一箇所、そこに一番太い切っ先が当たってしまった。
反射的に下肢を捩ろうとしたが、呆気なく腰を掴まれて逃げられなくなる。



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