先日は自ら股を開く真似迄したのに今日は随分と態度が違う。
熱に浮かされていただけか、或いはあれで懲りたのかもしれないと思ったが、彼の事情は正直どうでも良かった。
あの涙を見たい、ただそれだけ。
そのついでに今度はもう少し丁寧に弄んで、磨羯宮のタロットカードの宿命の星らしく淫行に堕落させてみたかった。
結局俺は影、兄の真似をするのだ。兄が淫行に溺れさせる事でシジフォスを捕えたように、俺もこの男を手に入れられるか試したかった。
手中にしたところで執着は無く、飽きたら直ぐに捨ててしまうだろうと容易く予想出来る部分は兄と随分違うのだが、それは恐らく二番目故。
一番目と同様、完璧だったならば、俺はとっくに兄と並んで居られただろう。
右の乳首に吸い付いて舌で捏ね繰り回すと肩を掴む指に力が篭った。
「……デフテロス…っ…」
エルシドは迷っている。恐らくは俺に対する負い目故に。ならば、そこに付け込んでしまえば良い。
彼は兄を慕っているかのような事を口にしていたが、あれは俺の怒りを正当化させる為の方便。
真の想い人はシジフォスなのだろう。
――シジフォスが泣いている。だから、還って来て。
はっきりとは聞き取れなかったが、兄に伝えたかったのはきっとこういう意味合いの事。
全く、俺は罪深い。
来る聖戦、聖域の要であった実兄を殺し、黄金の翼を涙に暮れさせ、今はこの生真面目な黒山羊迄餌食にしようとしている。
「アスプロスだと思って良いぞ」
判っていながら彼の嘘を持ち出し、罪責意識を刺激してやった。
「違う……駄目だ、デフテロス…」
頭を振って拒絶はするが、押し退ける事はせず、堪えて健気に唇を噛み締める。
やはりシジフォスと同様、他人に甘い。
ローブのフードを後ろへ落とし、兄と同じ髪色を見せ付けた。そうすれば、更に彼は追い詰められる筈。
乳首を強く吸い上げると息を漏らすだけの微かな悲鳴が上がった。唇を離せば薄い桃色だった乳首が赤くなり、腫れてぷくりと膨らんでいる。
左の乳首も同じ色形にしてやりたく、唇に挟んだ。ローブの肩を掴む指に更に力が込められ爪が立ったが気には止めない。
わざと派手な音を立てて吸うと可哀相な程に背筋を震わせた。
乳首を舌先で遊びながら、右手に捕えた性器と陰嚢を纏めて強く揉み込む。
「……ッ…!」
どうにも必死に声を押し殺そうとしているようだった。
思い起こせばこの男、傷の治療でも、先日の情事でも、痛みには殆ど声を上げない。
声を出した方が力が抜けて痛みは軽減されるのだが、その辺りは教本より信念を貫きたいらしい。
食事の順序より余程役に立つ理論だろうに、理解出来ない心理だ。
遠慮無く下着を引き下げると硬度を持ち始めた性器と陰嚢がまろび出た。腰を上げるよう促す意味で腰を叩くと、怖ず怖ずと従う。僅かに浮いた尻、その隙間から下着を抜いて脚から取り払った。
これで哀れな黒山羊は一矢纏わぬ姿になる。
「……お前、は」
控え目に声を掛けられて視線を上げた。
「……見せて、くれない……のか…」
言っている意味が判っているのか疑いたくなる。
本当に身体を繋げる覚悟が出来ているならば構わないが、彼は自分ばかりが肌を曝している事を気にしているのかもしれなかった。
「脱いで欲しいのか」
逆に問い掛けると居心地の悪そうに目線を伏せ、答えないまま両の手で股間を隠そうとする。
「隠すな」
語調を強くして手を払い退けるとこれもまた素直に腕は肩に戻ったが、緊張を滲ませ僅かに震えていた。
初物はこれだから面倒臭い。女でも男でも抱くならば慣れた奴の方が良い。
泣かれたり喚かりたりは興が冷めるし、何より悦楽を目的としているのに性戯が拙い等、身体を重ねる意味を感じなかった。
かと言って、彼が抱かれ慣れた身体であったら、こんなに興味を惹かれたかは判らない。少なくともこの男の泣き顔は嫌いではなかった。
――何とも理不尽な感情。
ベッドに膝から乗り上げ、一度彼の腕を下ろさせ羽織っていたローブのみ脱いで端へ放り遣る。
着ている服もローブ同様黒だから余り見た目は変わらない筈なのだが、彼はそれだけでも僅かに目許を緩めた。
その表情に少し心持ちが和らいでしまう俺は、頭がどうかしているのかもしれない。
顔を寄せると彼はまた緊張、否、怯えの色さえ見せて目を閉じてしまった。唇の触れ合う手前で冷たい息を吹き掛けると驚いたように双眼が開く。
「キスをされると思ったか?」
揶揄混じりに告げると途端、眼力が強くなった。負けず嫌い、そんな性質も強いらしい。
「馬鹿、違う。俺はただ」
小煩く開いた唇、強引に唇を重ねた。
「ん、ぅ」
言葉は互いの咥内で音として反響するのみ、舌を潜り込ませて歯列を辿ると責めるかのように肩を叩かれた。
構わずに角度を変えて口蓋を確かめにいく。ざらりとした舌触り、此処が敏感らしいのは先日交わした口付けで判っていたから、丹念にその凹凸を舐め辿る。
「……ふ、ぁ…」
今度は僅かに甘みを帯びた声が咥内に反響した。
痛覚の耐性は人一倍強い癖に、性感の耐性は皆無に近い。それも中々に面白かった。
逃げて縮こまる舌を掬って絡め取り、咥内に溜まる唾液を舌に伝わせて流し込む。
口付けも不慣れのようで、たったそれしきで目尻に涙を浮かせるのが何とも滑稽だ。
唇を解放すると、強制も指示もしていないのに喉仏を上下させて入り交じった唾液を飲み込む。薄い唇はすっかり濡れて赤みを増していた。
「……あのな」
僅かに乱れた呼吸を抑えて彼が口を開く。
「こういう、その、せめて、口付けくらいは、恋人と」
そこ迄言われて思わず吹き出してしまった。
「何が可笑しい、お前、失礼だぞ…!」
素っ裸で貞節を語られても笑うしかない。
「構わんだろう。減る物では無い」
笑いながら告げると彼は傷付いたかのように一瞬顔を歪めたが、直ぐにその感情を押し隠して表情を引き締め目を伏せた。
その移ろいに喉から笑いが消えてしまう。
「……そうだな、そうだった、一理ある」
まるで自身に言い聞かせているかのように彼は頷きを繰り返す。
気に入らなかった。何故そんな事に気分が悪くなるのかは自分でも良く判らなかった。
肩を押すと彼は呆気なくベッドに引き倒されたが、枕に埋めるようにして顔を横に逸らし、唇を白くなる程に噛み締める。
その態度も不愉快だった。両の大腿の裏を掴み上げて彼の肩に付く程に身体を折り畳む。畢竟、性器も陰嚢も後孔も俺の眼下に曝された。
「……っ…や……」
彼の小さく言い掛けた言葉は途中で掻き消えた。耳迄赤く染め目の縁に涙を溜めながらも、両手でシーツを握り締めてその恥辱的な体勢に耐える。
嫌ならばはっきりと拒絶すれば良いものを、彼の罪責意識はそこ迄強いのだろうか。
――己の貞操よりも大切か。
その程度の貞操観念なのか、それ程迄の罪悪感なのかは判り兼ねた。
会陰に舌を這わせるとひくりひくりと内股が震える。
舌が後孔の縁を捕えた時、唐突に髪を引っ張られた。仕方無く顔を上げると涙目がこちらに向いている。
「……何だ」
「それ、は……やめて、欲しい…」
懇願はやけに小さく遠慮がちだった。
「何故だ」



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