手を伸ばせばすぐに触れられるのに、わたしはライナーがどこかに行ってしまいそうな気がしてたまに無性に怖くなる。執拗にぺたぺたと肌に触れるわたしにライナーは迷惑そうな顔をしたけれども何も言わなかった。そんな彼の優しさがわたしは大好きだから、彼がどこかに行ってしまわないようにとわたしはまた触れる。その繰り返し。

 みんなの兄貴分であるライナーを頼る人は多い。兵士としての腕に関する悩みから恋愛に関する悩みまで幅広い相談をライナーに持ちかけるのもよくある話で、その度にライナーは一緒に悩んでは精一杯のアドバイスをしている。だから、なのだろうか。みんなは悩みを持つような繊細な心をライナーは持っていないと思っている。そんなの、真っ赤なうそ。

 わたしにはわかる。ライナーが見かけよりも繊細で、悩みやすい人間であるのを。それに、わたしの目から見るとライナーが他人の役に立つのは自分のためのようにしか思えてならない。相手の力になることで自分の存在を再認識しているような、そんな気がするのだ。きっと、みんなは気付いていない。もしかしたらライナー自身も気付いていない、違和感。

「ライナー。触っていい?」
「触っていいっておまえ。いつも無断に触ってるじゃねえか」
「えへへ。そうだったね」

 手を伸ばし、ライナーの腕に触れる。堅くて、ごつごつとした腕。手の平から伝わる温もりからライナーがここにいる事実を実感する。ライナーは、確かにわたしの目の前にいる。そう思ったらなんだか安心してしまい、わたしは思わず声をもらして笑う。ライナーは気味の悪そうな表情を浮かべてこちらを向く。

「そんなに俺の腕、気持ち悪いか?」
「ううん。気持ち悪くないよ」
「じゃあなんで笑ってるんだ?」
「ライナーがいるのが嬉しくて」
「なんだそりゃ」

 呆れるように言って、ライナーは目を細めて笑う。その表情を前に、わたしの心臓がぎゅっと小さくなる。ああ、ずるいよ不意打ちだなんて。きゅんとしちゃったじゃないか。わたしはライナーの笑った顔が好きだ。ううん、違う。ライナーの全部が好きだ。

「ねえ、ライナー」
「なんだ」

 急に思いを伝えたくなって口を開いたものの、言葉は紡げなかった。怖くなってしまったのだ。ライナーに思いを伝えることによって、ライナーがいなくなってしまいのではないか、と。

わたしはとっても臆病な人間だ。だから、ライナーがここにいる確証が欲しくて、あなたに触ってしまう。そんな臆病なわたしだから、あなたに好きとは言えない。言ってしまったら、あなたはきっと自分に自信を持ってしまう。そして頼られることで自分の存在を再認識しているライナーが自信をもってしまったら、わたしの手の届かないどこかに行ってしまいそうで。そんな気がしてならないのだ。わたしはそれが怖い。だから口を閉ざす。思いを隠す。ライナーに自信を持って欲しいと思うけれども、わたしはなによりもあなたと一緒にいたいの。臆病なわたしを許して。

「……ううん。なんでもない」



口を閉ざすラビット(20130923)