アニの笑い声が鼓膜にこびりついて耳から離れない。
 
 兵長や団長など調査兵団の上層部が集まる部屋へ呼び出されたわたしがアルミンからアニが女型の巨人である可能性が高いと聞かされたとき、わたしは思わず笑いこけ、そして冗談はやめてよ、とアルミンの肩を叩いた。だって、わたしの知っているアニはそんなことをする人間ではない。わたしは壁外遠征の中、見た。女型が次々と仲間たちを殺していく光景を。いまだって鮮明に思い出せる。なのに、アルミンはひどいことをいう。その仲間を殺した女型がアニである、なんて。そんなの絶対にうそ。だからわたしは信じていた。エレンたちに付き添い、アニを地下へと誘導しても尚、女型の巨人がアニではないと。

 ねえそうでしょ、アニ。そう信じたかった、信じていたのに、アニはわたしたちの目の前で女型の巨人になった。エレンのような、巨人に。そして何のためらいもなく、兵士たちを殺した。わたしの目の前で。ねえアニ。なんであなたは女型の巨人なの。わたしたちに疑われ、傷ついていたじゃない。ねえアニ。わたしは信じていたのよ。あなたが女型ではないって。

 あなたがなんのために、どんな名誉のために、どんな経由があって人を殺しているのかわたしにはわからない。でもわたしは知っている。第104期訓練兵として三年間を過ごしたアニ・レオンハートを。いつもつまんなそうな表情を浮かべてて、周囲と馴れ合いもせず、常に独りでいるのを好んで。そのくせ、周りをよく見渡していてぶっきらぼうながらも優しい女の子だっていうことを。

「アニ」
 声はすぐに闇へと吸い込まれ消えていく。暗い暗い地下の奥に、アニはいた。まるで周囲を拒絶するかのような水晶体に包まれて眠っていた。わたしがいくら名前を呼んでもアニの目は開かない。

「どう」
 状況を問われ、わたしが黙って首を横に振ると、ハンジ分隊長は残念そうに肩を竦める。

「一番仲のよかったきみでも無理なら、もう無理だろうね。戻ろう」

 これ以上は無駄と判断を下したハンジ分隊長が歩き出す。わたしはその背中に黙ってついていく。ちらり、と肩越しにアニを見るが、アニの体はぴくりとも動かない。

 ねえアニ。わたしはあなたが女型の巨人であると知って悲しかったけれど、わたしはまだアニのことが好きなの。あんなにもたくさん、わたしの仲間や友人を殺したというのにね。こんな状態のあなたを見ても、もうアニが傷付かなくて済む、って胸を撫で下ろした自分がどこかにいて、笑ってしまう。目の前で女型になったあなたを見たのに、まだ自分の中のアニを信じているなんて。

 ねえアニ。わたしね、本当は聞きたくて聞きたくて仕方がないの。冷静で、いつも現実を見ていたアニがここまでした理由を、心をすり減らしながらも人を殺した理由を。でも、アニが目覚めるまで我慢しててあげる。だからアニはゆっくりそこで休んで。おやすみ、アニ。


眠りからさめるそのときまで(20130921)
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