鎮目といくら愛し合っても、わたしたちは本当の意味では繋がれない。鎮目は契約者で、わたしはただの人間。立っている場所すら、違うのだ。触れる度に、掌から鎮目の体温を感じるけれども、鎮目はわたしの前になんかいない。
いくら、わたしが手を伸ばしても届かない世界にいて、わたしとは決して交わらない。こんなに近くにいるのに、そばにいるのに、わたしにはわからないのだ。鎮目が何を考え、何を思い、何を感じているのかを。こんなにも知りたいと願っているのに。
「ねえ、鎮目」
「なに、また欲情でもしちゃったわけ?」
横で寝転んでいる鎮目の上に覆い被さる。温かい、鎮目のぬくもり。肩口に頭を沈めれば、鎮目のにおいでいっぱいになる。ねえ、鎮目の目には、わたしはどう映っているの? わたしが欲するように、鎮目もわたしを欲してくれるの?
鎮目は慈しむかのように、わたしの頭を撫でる。その手は、とろけてしまうほどに、あまく、やさしい。こうやって触れ合うのもつかの間のひとときで、ここから離れてしまったら、次に会えるのかもわからない。夢のような、現実。だけど、目を覚ましたら、きっと鎮目はまたいなくなるだろう。
今、名前を呼べば、振り向くのに。手を伸ばせば、触れられるのに。ねえ、どこに行くの。わたしのいない世界で、なにを見るの。どうしてこんなにも近くにいるのに、心の端すら読み取ることができないの。
でも、鎮目の世界に連れてって。なんて言うほど、わたしは愚鈍ではない。わたしたちが相容れないなんて、最初からわかっていて、高望みしていたのは、わたしの方。
「鎮目、愛してる」
それでも、同じ世界で生きられないとわかっていても、せめて錯覚はさせて。同じ世界で生きてる、と思わせて。彼の心に一秒でも永く留められるように、わたしは首筋を強く、噛み締めた。
差異(20130401)