コンビニのバイトは暇だ。ふぁーと情けなく欠伸をしながら、1時間以上誰も入ってこない入り口の方をただ眺める。コンビニ内は空調が程良く効いていて、暑くも寒くない。だけど、外は絶好の洗濯日和で、日光サンサンってとこだ。だから、バイトに来る前に布団を干しておけばよかった。なんて主婦みたいなことを考えては、少し後悔。

 幸い、今日は店長もマネージャーもいない。要するに、わたしパラダイス。そりゃ、店にいなくても店長のパソコンから店内を監視することは可能だけど、あの面倒臭がり屋の店長が見るわけがない。それに下手にレジをマイナスにしなければ文句は言わないだろう。

「(ああ。暇だ。とてつもなく暇だ)」

 今日だけでも十回以上呟いている言葉を心中でまた呟く。前は忙しいのは嫌だ、とか抜かしていたけど、今思えば、あれがちょうど良かった。

 うちの店は、ちょっと前までは栄えていた。駅前にあるコンビニのようにいつも人がごった返すってレベルまではいかないけれど、そこそこ人が入っていた。だけど、最近近くに大型スーパーができた。

既に想像がついているかもしれないが、お客さんをそっちに根こそぎ持っていかれたのだ。だから、うちの店はご覧の通りがらんがらんなわけで。まあ、わたしはバイト代さえ貰えば全然問題ないけれど、店長たちはこの状況に顔を真っ青にさせているらしい。あらまー経営者って大変ネー。

 でも、いくらお客さんを大型スーパーに持ってかれたとはいえ、安売りばかりしているスーパーに寝返らないでくれるお客さんもいるのは事実。そうえば、もうそろそろ来るんじゃね? と時計を見て思うと、まるでタイミングを見計らったかのように、その貴重なお客様が来る。

軽やかなメロディーと共に開いた自動ドアを通り、白いシャツとジーパンというかなりラフな格好をした細身の青年が申し訳なさそうに店内に入ってくる。

「いらっしゃいませ」
「どうも、こんにちは」

 入店時の挨拶は大抵、お客さんに無視されるのだが、細身の青年―李くんはわざわざ挨拶を返してくれる。うーん、いい人ですな。彼は相変わらず青果コーナーへと向かっていく。そして大量の野菜を購入していく。コンビニの青果コーナーなんてちっぽけだし、高いのに。スーパーの方が絶対に安いに決まっている。そんな疑問をいつも抱きながら、彼が持ってきた商品を何も言わずスキャンするわたし。

「いつもありがとう」
「いえいえ。こちらこそ」
「ふふっ。李くん、なんか日本語変」
「え?そうですか?」

 だって、李くんまでスーパーに行ってしまったら、わたしの癒しがなくなる。正直言えば、目の保養のため。更に詳しく言えば、ただ単にイケメンと絡みたいだけですけど!

 しょうもない世間話が終わった後、李くんはこれまたご丁寧にも私に向けて一礼してから、両手に袋を持ちながら帰っていった。はあ、今日もイケメン要素ゲットしました、ごちそうさま。これで、今日もがんばっていけます。



取り留めもない日

(20120921)
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