私にとって、臨也さんは空気と同じくらいに必要な存在であり、体と同じくらいに無くてはならない存在であり、感情と同じくらいにあって当たり前の存在。臨也さんは私の全て。私が生きるのも、食べるのも、話すのも、笑うのも、全て臨也さんのためである。

 人によったら、臨也さんにもそうして欲しい、と願うかもしれないが、私は臨也さんにそんなことを強要しない。臨也さんが、私という存在をただ必要としてくれるのならば、それだけでいい。だから、愛されたいなんて思わないし、願わないし、見返りだって求めない。

「あーあ。今日もぐっちゃんぐっちゃんにしちゃったんだね」
「駄目、でしたか?」
「いいや。駄目ではないよ。なんせ、打ち殺せって君に言ったのは、俺なんだしね」
「私は、臨也さんの役にたてたのでしょうか?」
「うん。たっているよ」

 今回の標的には少してこずってしまった。標的は私がやってくることを予め知っていたようで、自分の周りを明らかにそっち系の人たちで固めていた。その人たちは、金属バット、スタンガン、ナイフ、拳銃などいった、各種様々な武器を手にし、バタフライナイフ片手に突っ込んでいった私を袋叩きにして殺そうとしていた。

数が数の分、臨也さんに原型がわからなくなるまでに殺せ、という命令を遂行するまで時間がかかったし、いつも以上に怪我だってした。体に伝わる痛覚から、もしかしたら足や肋骨あたりに皹が入ったかもしれないが、それはどうでもいいことだ。

だって、ちゃんと臨也さんの命令通りに、標的をぐちゃぐちゃに殺すことができたのだから。その結果を手に入れるまでの経過なんて興味が無い。私にとって、臨也さんの役にたったのか、たてなかったのか、その二つの結果しか重要ではない。

「おいで」

ひょいひょいと、臨也さんが私に向かって手招きをする。なんだろう、と小首を傾げながら近づくと、臨也さんはポケットからハンカチを取り出しては、「整った顔に赤は映えるけど、一応ね」と言って、私の顔についた赤いものを拭っていく。数が多かったため、結構な量の返り血がついているのか、臨也さんは私の顔をごしごしと擦る。

「うん。元の綺麗な顔になったよ」
「ありがとうございます」
「こちらこそ。今日も俺の為に働いてくれたありがとう」
「いえ。私は、臨也さんの役にたつことこそが、本望ですから」
「きみは申し分ないくらいに、俺の役にたっているよ」

 私には勿体無いほどの爽やかな笑みを見せると、臨也さんは小さな子供を褒めるような動作で、私の頭をゆっくりと撫でる。伝わる心地いい感覚に、私の表情も次第に笑顔へと変わっていく。互いに笑顔を浮かべあう、臨也さんと私。

だけど、私は知っている。今回の標的に私がやってくることをリークしたのは、臨也さんであることを。集団に殴られる私を見て、臨也さんが笑っていることを。臨也さんが私に向けた言葉には、感情の欠片さえ込められていないことを。私は全て知っている。けど、そんなのはどうでもいい。


どんな理由でも、臨也さんが、私を必要としてくれるのなら、それで十分。だって、私は臨也さんのために生きているのだから。






呼吸に等しい(20100408)
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