「えっ! 何々この子!? リヴァイの隠し子かなにかー!? うっひょー、肌もっちもっちだああ!!」

 夕刻になり、巨人の脅威から逃れたわたしたちは壁外に設置されていた簡素な小屋のようなところで体を休めていた。どうやら今回の壁外調査の任務は大方完了したらしく、あとは朝日が昇る前に壁の中へと戻るだけだった。

そのため、エルヴィンの暗殺未遂をしでかしたわたしも壁の中に戻るまでは彼らの監視下に置かれることとなった。そのためこうして彼らと共に部屋の中にいるのだが、会議を行う際にやってきたハンジと名乗る人に存在を認知されるや否、冒頭のように奇声をあげながらあちこちからだを触られるている。

 暗殺未遂したわたしを兵士として迎えようとするエルヴィンにしろ、子供相手に容赦のないリヴァイにしろ、こうやって子供を触っては興奮するハンジにしろ、調査兵団というのは変人しか所属していないのだろうか。

あまりの鬱陶しさに眉をひそめていると、ハンジの部下と思われる兵士がハンジを説得してはどこか連れて行ってくれた。が、その際に重要な書類を忘れたらしくエルヴィンは苦笑を溢しては渡してくると言って、部屋を出てしまい、部屋にはリヴァイとわたしだけになってしまった。

 沈黙が続く。リヴァイは静かに紅茶を飲みながら先程の会議に使用された書類に目を通していた。わたしはしばらく部屋全体を眺めるように見てから、何の脈略もなくリヴァイにナイフを貸してもらえないかと請う。

「……何に使う気だ。この期に及んでまだエルヴィンをとかぬかすんじゃねえだろうな」
「まさか。もう殺す気は更々ありませんよ。……あ、ここに置いてあるの借りますね」
「おい」

 リヴァイの制止の声に気も留めず、わたしは無造作に置かれていたハサミを手に取り、それを自身の髪へと当てた。ザクリ、ザクリ、と太く低い音が響き、数秒もしないうちにわたしの手元には分厚い栗色の髪束ができた。突然の行動にリヴァイは瞠目する。

「ああさっぱりしました」
「おまえ、なんでそんなことをした」
「そんなことって、だって男の子が髪長いのはおかしいじゃないですか」
「男だと? おまえは女だろう」
「女ですけど、わたしは……ううんぼくのこの体は兄、ルカのものであって、セシルのものではない」

 憎悪の根源が自分であるとわかったあのとき、ぼくは決めたのだ。兄のルカに成り代わるって。それが当然のことだ。だって、死ぬべきなのはセシルであったはずなのだから。

「言いましたよね。思いを背負うことなく命を捨てるのかって。あのとき巨人が来たから言えませんでしたが、違います。ぼくは思いをこれから先もずっと背負っていきますし、捨てる気もない。この命はルカのために費やしていくんです」

 だからルカを殺した巨人を駆逐する。だからルカに成り代わる。それが条理ってものでしょう。そう言い放ったぼくを見て、リヴァイは苦虫を潰したかのような表情を浮かべ、忌々しそうに舌打ちをした。ぼくは当たり前のことしか言っていないはずなのに、なぜリヴァイにそんな反応されたのか理解できなかった。





(20130930)


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