がたん、ごとん。揺れ動く地面と共に聞こえるのは馬の嘶き。鼻腔に草木の臭いが霞める度、自分がどれほど無鉄砲なことを行っているのかを知り、鼓動が早まる。微かに震える手をぎゅっと握り締め、わたしは息を潜める。もうわたしにはこの手段しかないのだ。いまさら悔いてもおそい。ここにいる以上、やることは一つしかないのだ。

そう自身に叱咤していると、ふいに動きが止まった。誰かの走る音。耳を澄ませて聞くと、どうやらここで少し休憩を取るらしい。それは好都合。ごくり、と固唾を飲み込み、布の隙間から機会を伺う。しばらくすると伝達事項は伝えきったのか標的の周囲には誰もいなくなった。いましかない。そう思い、わたしは勢いよく飛び降りては標的に向かって一直線に走った。

「エルヴィン団長死ねええええ!!」

 両手でナイフを握り締め、切っ先を大柄で金髪の男性――調査兵団第十三代団長エルヴィン・スミスへ向けて。思わぬ奇襲に一思いにやられてしまえばいい。そんな思いと共にわたしは捨て身の攻撃を仕掛けたのだが、切っ先がナイフに届く前にわたしの身体は勢いよく地面へと叩き付けられた。

 いま、なにがあった? 擦れた身体の左側に痛みを感じながら顔をあげる。エルヴィン・スミスは先程と変わらぬ位置に立ってこちらを見ていた。ということは、先程のあれは彼のものではない。じゃあ誰が、そんな考えが巡ったとき脇腹に痛みが走った。

「エルヴィン。なんだこのクソガキは。巨人にしてはやけに小いせえと思うが」
「その子はおそらく迷子だろう。リヴァイ、離してやれ」
「迷子? 俺にはこいつがお前を殺そうとしていたように見えたが」
「きっと何か事情があるのだろう。どうやって荷馬車に紛れ込んだのか気になるところだが、とりあえず、大丈夫かな?」

 エルヴィンはこちらに歩み寄り、わたしへ手を差し伸べた。手とエルヴィンを交互に見てからわたしが唾を吐き捨てると、わたしの脇腹に足を置いている男が更に力を加える。あまりの痛みに声をあげると、男が髪を引っ張り「どうやら礼儀もしらねえみたいだな」と耳元でドスの利いた声を落とす。これ以上痛い思いをしたくないわたしは慌ててエルヴィンの手を取った。





(201309025)


- ナノ -