「おまえ、エレンたちと喧嘩したのか」
もぐもぐと乾いたパンを咀嚼していると、横からそんな声が降ってきた。声のした方へ目だけ向けると、坊主姿の小柄な少年が同じように食事をとっていた。見覚えのあるシルエットに、入団式の儀式が思い起こされる。確か、敬礼の向きを間違え、教官にどやされた兵士だ。名前は、コニー・スプリンガーだったような気がする。
「別に、喧嘩はしてない」
「おまえら出身区が一緒な上に元々知り合いだったんだろ? じゃあなんで喧嘩してねえのに、おまえは避けてんだよ」
「さあ。なんでだろうね」
ぼくの返答が納得いかなかったのか、コニーは怪訝そうに眉をひそめた。しかし、ぼくの言っていることは間違っていない。エレンたちとは喧嘩をしていない。どちらかといえば、ぼくが一方的に避けているだけなのだ。
『ルカに成り代わる? なんだよそれ』
『そうだよ、セシル。ルカはそんなの望んでいない』
ルカが死んだこと。ルカに成り代わること。すべてをエレンたちに話し、返ってきたのは否定の言葉たち。ぼくにはなんでエレンたちがそんなことを言うのか理解できなかった。だって、エレンたちは知っているはずだ。セシルよりもルカが生きるべきだったって。ぼくじゃなくて、わたしが死ぬべきだったって。
なのに、ルカに成り代わる必要はないとかおかしなことを言う。だから、ぼくは制止する声も否定する声も全部ぜんぶ無視して、聞こえないフリして、その場を去った。なにかを叫んでいるエレンたちに一切振り返らず。
それからというもの、エレンたちはあまりぼくに話しかけてこなくはなった。ときどき、視線を感じることがあったが、それでも取り合わないでいた。そして気付けばちぐはぐな距離感が生じた。だけの話。
「あれか。ジャンみてえに内地で楽して暮らすとか言ってエレンを怒らせたんじゃねえのか」
しばらく黙ってパンを食べているかと思えば、眉間にしわを寄せながらコニーは突然問う。こいつは話を聞いてなかったのだろうか。パンを水で流し込み、喧嘩していない旨を再度告げる。
「じゃあルカはエレンみてえに巨人を一匹残らず駆逐してやるとか、外の世界とかに生きたいとか思ってんのか」
どうやらこいつは物事を極端にしか捉えられないようだ。きっとこの調子じゃどれほど話しても彼には通じないだろう。彼の歩調に合わせることにし、質問の答えを思案する。少し冷めたスープをスプーンでかき混ぜる。
「うーん。別に外に出たいとか巨人を早く殺したいとかは思わないけど、」
「思わないけど」
コニーがこちらを向く。手を止め、彼の目を見る。
「巨人は全部殺したいとは思うよ」
(20131013)