「エレン。髪切ったのだけれど、どう」
「……おまえ、もしかしてセシルか?」
「エレン、聞いて」
「久しぶりだな!」
「…………」

 エレンの服の裾をつかんだまま静かに顔を俯かせるミカサに苦笑を溢しながら、やあと手をあげる。まさかエレンとアルミンとの再会がこんなにも早くなるとは思わなかった。

昨晩、ぼくはミカサにお願いをされその髪を切ったのだが、翌朝の今日。起床と同時にミカサがすぐにエレンに見せたいと言い出し、ぼくはミカサに半ば連れ去られるようにして食堂で朝食をとる彼らの元へ姿を現した。

きっと切った髪を見せるついでにぼくを彼らに見せようとしたのだろうが、ミカサの読みは外れ、欲しかったエレンの視線はミカサの髪にではなく、ぼくにだけ注がれてしまった。

「昨日、ミカサと再会してね。ほら、髪を切っているだろう? それをぼくがやったんだ」
「ん? ああ。そうえば髪切ってるな。いやそんなことよりおまえがここにいるとは意外だ」

 一応ミカサを思い、軌道修正を行ってみたがエレンの反応は予想以上に冷たい。心なしかミカサの俯き具合が更に深くなったような気がする。どうやらエレンの素っ気無さも健在らしい。

 エレンと一言二言交わしていると違う相手と喋っていたアルミンがこちらを向き、ぼくの姿を捉える。途端に開かれる目。エレンにしたように軽く手をあげる。

「セシルじゃないか! まさかきみも訓練兵に?」
「そうだよ。じゃないとここにいないじゃないか。ミカサやエレンはともかく、アルミンまで訓練兵になるとは思わなかったよ」
「それは俺の台詞だ、セシル。おまえだってアルミンと同じくらいに喧嘩が弱かったじゃねえか」
「エレンはひどいなあ。確かにぼくは強くなかったけれども」

 アルミンと共に近所の子供たちに苛められた記憶を思い起こしながら、肩を揺らし笑う。が、笑っているのはぼくだけだった。エレンとアルミンはなんともいえない表情を浮かべては二人で顔を合わせていた。その雰囲気だけで彼らが何を言わんとしているのか察した。ミカサもこちらを見ていた。それでも、ぼくはどうしたんだいと言って催促をした。エレンが頷き、おずおずと口を開く。

「なあ、セシル。おまえ、そんな喋り方してたか?」
 畳み掛けるようにして、アルミンも口を開く。
「それにきみがいるということは、彼もいるんだろ。ルカはどこにいるんだい」





(20131009)


- ナノ -