845年。ウォール・マリア南端の突出区画シガンシナ区に超大型巨人が出現した際、わたしは両親を失い、兄弟を失った。たったひとりになったわたしは開拓地へと避難するしかなかった。与えられる食事は乾き切った硬いパンの日もあったし、場合によってはない日もあった。わたしはそんな地の果てのような場所で三人の友達ができた。三人ともわたしと同じようにシガンシナ区から避難してきて、同じように身内を亡くしたにも関わらず、三人の目は絶望の色に染まっていなくて、その目はいつも遠い未来へと向けられていた。

「おまえ、大丈夫か? すんげー顔してるぞ」

 最初に話しかけてくれたのは、エレン・イェーガーだった。彼は自身の母を殺した巨人に対して異常なまでの憎悪を抱いていて、いつも彼は巨人を駆逐する日を夢見ていた。そんな強い意志に伴う行動力も持っていて、感情の起伏のあまり兵士に突っかかる場面を何度か見かけた。人によっては愚かだとエレンを嘲笑するかもしれないがわたしは自分の思いを隠すことなくまっすぐとぶつけるエレンの行動力がとても羨ましくて仕方がなかった。

「なまえ、食べて。じゃないと倒れてしまう」

 食事を分けてくれたのは、ミカサ・アッカーマンだった。彼女はわたしと同じ少女にも関わらず、振る力は大人以上のもので。三人の中でも一番、この世界の残酷さを理解しているのに、彼女から諦めは見えなかった。それに彼女の行動原理であるエレンのためならばなにを捨てても厭わないミカサの覚悟は、少女のものとあしらうにはあまりにも失礼なほどに強固で、わたしはそんなミカサの強く固められた覚悟に憧れた。

「この道具はこうやって使った方がうまくいくよ。ほらね、なまえ」

 知恵をくれたのは、アルミン・アルレルトだった。彼はエレンたちのような行動力も力もない上に気が弱く、他の子供たちから苛められているのを何度か見たことがあった。結果的にはエレンたちに救われる彼だけれども、アルミンは一度たりとも弱音を吐いてはいなかった。ずっと我慢し、堪える力。絶対に負けるものか、という強い意志。彼のうちにそんな強い意志が燻っているのはわたしにはわかった。わたしはそんなアルミンの強さが欲しいとすら思えた。

 わたしたち四人は生まれた年も境遇も同じでなんら変わりないというのに、流されるまま現状に甘んじてしまうわたしとは違って、彼らは輝いていた。こんな地の果てのような場所でも諦めず、希望を持って、自身を失わず、立ち続けていた。そんな彼らをわたしはずっと羨ましいと憧れては、欲しいとすら思った。

「なまえ! おまえも来いよ!」
「ここになまえがいても、得なことはない。だから来て」
「なまえ、そんなこと言わないで。だから僕らと行こう」

 優しくて強い彼らはわたしを気遣い、共に行こうと誘ってくれたけれども、わたしには彼らのようになる勇気はなくて、わたしは開拓地を去る三人の背中を見送った。わたしひとりだけが開拓地に残った。

三人がいなくなったあともわたしのやることは以前と変わらなかった。朝起きては兵団からの支給を受け取り、それを少しずつ食しながら与えられた仕事を夕刻まで行い、寝る日々。貧しく、なにも娯楽のない生活だったけれど、生きることはできた。わたしはそれでよかった。こうやって巨人に遭遇せず、生きていけれるのならばなんでもいいとすら思った。だから、開拓地に残ったことに後悔はない。だけど、たまに思うんだ。もしあのとき、勇気を振り絞って三人についていったら、わたしも彼らのように輝くことができたのだろうか、と。


太陽のように輝くきみたちをおもう(20131002)