アルミンは強いね、と言ったわたしにアルミンは至極真面目な表情でなまえの方が強いじゃないか、と返した。

「僕なんて卒業できるかどうか。それに比べて、なまえは上位10人に入らずとも中々の成績だ」

 確かにアルミンの言うとおり、第104期訓練兵団の中でのわたしの成績はまずまずのところに位置する。が、わたしの言いたいのはそんな順番をつけれる強さなんかじゃない。

「わたしが言ってるのは、心の強さだよアルミン」
「心の強さ?」

 オウムのように言葉を繰り返しては小首を傾げるアルミンの姿は、少し角度を変えれば女の子にも見え、とても愛らしかった。しかし、その華奢な体にはたくさんの絶望が宿っているのをわたしは知っている。

アルミンの出身地であるシガンシナ区は二年前、巨人に襲撃された。その中で彼はたくさんの死を見てきただろう。だから、アルミンは知っている。巨人がどんなものか、巨人がどうやって人を殺すのか、を。なのに、知っても尚、アルミンは兵士になる道を選んだ。恐怖を押し殺し、巨人に立ち向かうために。

「わたしね、アルミンのそういう強さが本当に羨ましい」
「……僕はなまえの言うような強い人間じゃないよ。いつだって、エレンやミカサに守ってもらってばっかだ」

 そう言って申し訳なさそうに眉を下げるアルミン。違うわ、アルミン。あなたはただ自分の強さに気付いてないだけ。アルミンが気にしているように、ジャンとかもアルミンのことをエレンやミカサの腰巾着や金魚のフンなどと言って馬鹿にしているが、みんなは知らないだけだ。自分より優れた人間が自分の前に立ち続けることがどれほどのプレッシャーでどれほど自尊心を苛むか、弱者として守られるだけなら簡単だ。なにも考えず守ってもらえばいいのだから。

 だけど、アルミンは違う。エレンやミカサと共に歩こうと努力している。強者に潰されず、自分の足で立ち続けようとしている。それがどれほど苦痛を伴うものか、わたしは知っている。だから、アルミンの強さが羨ましかった。

「わたしはアルミンみたいになれないから、ここにいるだけで泣いてしまいそうになる」

 膝を抱え、頭を埋める。いまだってまだ二年前のことを思い出すだけで胸が痛い。だって、壁の中にこんな人がいるとは知らなかった。こんな自分たちと大差ない人たちがいるなんて知らなかった。知りたくなかった。戦士として失格だ。こんな弱音、アニたちに聞かれたらきっとそんな風に言われるだろう。潰れちゃいそうだよ、アルミン。そう搾り出した声にアルミンは……なまえはいじめられているの? と神妙な声音で返す。

「え?」
「大丈夫、誰にも言わないよ。だからひとりで悩まないで一緒に考えよう。きっと打開策はあるから。だから、なまえ泣かないで」

 顔をあげたわたしの目を見据え、アルミンは手を差し伸べた。アルミンの顔と手を交互に見つめ、わたしは瞬きを繰り返す。どうやらアルミンはわたしが誰かしらに苛められ、神経衰弱に陥っていると勘違いしたようだった。しかも、その上でわたしを助けようとしているらしい。……やっぱ、アルミンは強いよ。自分を弱い、と卑下するくせに行動は、エレンやミカサと同じ、守る側だ。そんなちぐはぐなアルミンを前にわたしは涙を流す。

「あっ、なまえ泣かないでって言ったじゃないか」

 わたしの傍に行くと、アルミンは優しくわたしの背中を摩り、宥める。手から伝わる優しい感触。ああ、わたしはやっぱりあなたのことが好きだ。弱いと自覚しながらも強くあろうとするあなたの健気な姿が好き。だから、わたしはあなたを殺したくない。できることならわたしはあなたと一緒に――。

「アルミン、ごめんね」

  そんな絵空事のような言葉を言えるはずもなく、わたしが言えるのは、これだけだった。アルミンは意味がわからず困惑しているようだったが、それでいい。アルミンがこの涙の意味を知る日など来ないのだから。そう割り切ってくるせに、アルミンにこんなわたしを許して、と思ってしまうのはきっとわたしのエゴに違いない。





食べてしまいたい(201309017)

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