『死にたきゃ、とっとくたばりやがれ』
わたしはあの場で死ぬつもりだった。本気で兵長に殺してもらおうと思っていた。なのに、兵長の言葉が未だ胸に突き刺さる。投げ捨てた人生だと言うのに、いつまでもわたしの頭の中で反芻し続ける。
死のうと思っているくせに、兵長の言葉に傷つく。死にたきゃ兵長の言うとおり、勝手に死ねばいいものをわたしは未だに生きていて、未だ仲間たちの痕が残る古城に立て篭もっている。わたしの行動は意思とは矛盾していて、誰よりも自分自身が難解だった。わたしはいったいどうなりたいのだろうか。
壁外調査から帰ってきて二日目にして、城中が喧騒に包まれた。扉の外から漏れる音から察するにどうやら撤退作業しているようだった。ペトラたちの遺品整理もおそらく行っているのだろう。その最中ですれ違ったと思われるエレンが度々心配してか、声をかけてくれたことがあったが、わたしは一度も答えることはなかった。わたしを助けた張本人だというのに。
布団の奥へともぐりこみ、息を吐く。情けない。みんなが命がけで守った後輩にすらあたってしまう自分が惨めだった。でもまだ人と話せる気分にはなれない。仲間を亡くし、右足を亡くし、兵士という自分を亡くし。わたしはこれからどうすればいいというのだろう。未だ、亡くした右足が痛む。ズキズキ、と。まるでわたしを責めるかのように。
『結婚を勧められているの』
ペトラの声が脳裏に浮かび上がる。あのときはよくわからないと思っていたが、戦闘兵ではなくなった今、その選択肢もありなのかもしれない。わたしだってまだ若い。新たな人生を送るとしても十分間に合う。片足をなくした女をもらってくれる相手がいるかどうかいささか怪しいどころだが。
這うように移動し、隅に置いていた一着のドレスを手に取る。故郷を出る際、母がわたしに託したもの。母が着ていたというドレス。母はわたしがこのドレスを着るのをとても楽しみにしていたという。だからわたしが入団するとわかってもなお、その夢を諦められず、わたしに渡した。そんな、いたいけな母の望みを叶えるのだって悪くなかろう。
壁を伝い立ち上がる。ドレスを自身の体に充てる。……ああなんだ似合うじゃないか。わたしには女として生きる道が残っていたのか。
なんて言葉は世辞でも言えなかった。
立体機動を使いこなすために鍛えた体は、人類の平和のために戦った体は、可愛らしく仕立てられたドレスに見合わない。
『滑稽じゃない? 兵士なのに結婚なんて』
ペトラの言葉の意味が痛いほどわかる。そうだね、今更女を武器にして生きるなんて滑稽だ。男に負けまいと頑張って訓練を重ねては戦績をあげて、男に劣らない力を手に入れようとあがいてきたというのにね。
自嘲し、わたしはドレスを投げ捨てる。母には悪いが、こんなのわたしの着たいものではない。血の匂いが染みたわたしの体には、やはりこの翼が刻まれた制服しかないのだ。いまさら歩む道など変えられまい。たとえ、足をなくしたとしても。
それに、こんな血まみれな女を誰が拾うというのだ。馬鹿馬鹿しい。これじゃあオルオすら馬鹿にできないじゃないか。
(20130912)