他愛のない会話をして笑いあった日々をこんなにもすぐに思い出せるというのに、いつまで経っても声は聞こえない。ここにいるのは、わたしだけだった。グンタは斬り殺され、エルドは噛み殺され、ペトラは踏み潰され、オルオは蹴り殺された。わたしだけがおめおめと生き残ってしまった。女型に右足をつかまれ、死を覚悟したというのに、巨人化したエレンによって救われてしまった。一緒に死ねなかった。

 なぜわたしだけ生きているのだろうか。右足は失われ、もう満足に歩くこともできないというのに。これじゃあ兵士としても、生きていけないじゃないか。わたしから兵士という肩書きを取ったら何が残る? いまさらどの面を下げて故郷に帰ればいいというのだ。こんなにも巨人を憎み、ぶっ殺してやりたいと思っているのに。

「パティ」
 名前を呼ぶ声が聞こえた。顔を上げると、兵長がそこに立っていた。使えなれない杖でふらふらとなりながらも兵長に近寄り、両腕をつかむ。

「兵長……わたしを殺してください」
「…………」
「兵士になれないなら死んだ方がマシだっ!! 兵長!!この場で殺してくださいッッ!!」
「…………」
 兵長は何も言わなかった。ただ静かにわたしを見下ろす。次第に力が入っていき、爪が腕に強く食い込んでいく。わたしは構わず叫んだ。周囲の兵士がざわめくのに気付いたが、どうしても抑えきれなかった。

「なにか、言ってくださいよお……お願いですから……」
 
 口を閉ざし続ける兵長に向けて藁にもすがるような声を絞り出すと、兵長は深くため息をつき「言いたいことはそれだけか」と今まで聞いたことのない冷たい言葉を投げかけた。驚き、顔をあげると、兵長はまるで巨人を見るかのような目でわたしを見ていた。ぞっと体中に悪寒が走る。恐怖のあまり手を離すと、兵長はそのまま踵を返していく。

「へ、へいちょう!」
 わたしの声に、兵長は足を止めた。が、こちらに背を向けたまま、兵長は淡々とこうはき捨てた。

「……どうやら、おまえを俺の班に呼んだのは俺の見込み違いだったようだ。パトリシアよ。死にたきゃ、とっとくたばりやがれ」





(20130909)

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テーマ「人外ファンタジー」
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