なぜわたしは死ねなかったのだろう。
 その思いばかり、わたしのからだを支配する。




「ペトラ、なにを書いているの?」

 テーブルの椅子に腰掛けながら、なにやら書き物をしているペトラに気付き、後ろから覗く。白い紙に、たくさん文字。どうやら手紙書いているようだった。誰宛だろう、と疑問に思っているとペトラが筆を置き、こちらを向く。少し、照れくさそうに宛て先は父親であることを明かす。

「お父さんか。そっか、最近帰省する暇もないぐらいに忙しかったしね」
「まあ、それもあるけど、」
「ん、ペトラ?」
 歯切れの悪いペトラの話し方。珍しい。小首を傾げる。

ペトラはやや恥ずかしそうにあのね、と切り出すとわたしの耳元で父親から結婚を勧められている、と答える。わたしは驚き、オウムのように言葉を繰り返しそうになったが、寸前のところでペトラがわたしの口元を手で塞いだ。

「おい、ペトラ、パティどうした?」
 騒ぎに気付いたグンタがこちらを怪訝そうに見る。ペトラはわたしを押えたまま、グンタへと取り繕う。

「き、気にしないで! 体に虫がついたパティが驚いちゃったみたいなの。ねっ、パティ!」

 なすがままこくこくと必死に首を縦に振ると、グンタはオルオとの会話へと戻っていった。そこでようやく安心したペトラがわたしから手をどかす。

はー。ようやく息が吸えた。暢気に深呼吸を繰り返すわたしに鋭い視線が突き刺さる。

「そんなに睨まなくたって」
「パティがいきなり大声で言おうとするんだもん」
「別にいいじゃん。そんなにバレるのが恥ずかしいの?」
「恥ずかしいというより、滑稽じゃない? 兵士なのに結婚なんて」

 そう言ってペトラは自嘲にも似た笑みを浮かべた。確かにわたしたちは兵士だ。だけど、その前にひとりの人間でもあるし、ひとりの年頃の女の子でもある。普段巨人を殺すことに夢中になりすぎて、そんな当たり前のことすら忘れそうになってしまうが。

 でも、親の望みなら退団して、結婚するのもひとつの人生だ。まして女の子なら。

「ねえ、オルオは結婚についてどう思う」
「ちょっと、パティ!?」
 話題を振ったことにペトラは声をあげるが、オルオは大して気にした様子もなく、答える。
「なんだ唐突に。……結婚か。俺には結婚の良さもわかる。……まあ、おまえたちのレベルじゃ、俺の考えまで至らないだろうが」

 相変わらず、兵長の口調を真似ているかのような言動に、ペトラの表情が固まる。心底嫌そうだ。そんな二人を見て、グンタは笑い、ちょうど部屋に入ってきたエルドはなんだなんだ、と言って輪に入ってきた。

 笑顔と喧騒に包まれていく部屋。ペトラは結婚という行為を滑稽だと評したが、わたしは結婚ということ自体、あまりピン、と頭に来なかったのである。誰かと結婚して子供を産んで幸せに暮らす日々。確かにそんな日々も選択によって訪れるかもしれない。だけど、巨人がいる以上、それがいい選択なのかよくはわからない。だけど、そんな幸せな日々がみんなに一日も早く訪れればいいとは思う。





(20130909)

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