五限の数学の授業中、その衝動は、唐突にやってきた。くら、っと眩暈がし、喉の奥に熱が帯び始める。段々と意識は朦朧としていく。ああ、やばいと思った次の瞬間、私の上半身は、ガタン、と大きな音立て、机の上へと倒れこむ。周囲が驚いたようにこちらを向くのが空気でわかった。

 早くここから出ない、と。今の私にとって、人間が密集するここはきつい。いつ理性が飛ぶかわからない。心配そうに話しかけてくる隣の席の子も、体調を伺う教師も、相手にする余裕がなかったため、私は魔眼を利用し、教室から急ぎ足で出る。

「(鞄にあったよな、確か)」

 人気の少ない屋上に足を向けながら、私は鞄の中であるものを探す。それは、以前森厳からもらった献血パック。つまり、人間の血だ。半吸血鬼とはいえ、吸血鬼は吸血鬼であり、人を魅了する魔眼や驚異的な回復力を持つように、吸血鬼であるために最も大切な行為、吸血も、私にとって必要な行為なのだ。

 しかし、だからといって、古来の吸血鬼たちのように人間を襲うわけにもいかないので、衝動が襲ってきたときは、こうして献血パックの血を吸って、衝動を抑えているのである。

「あー。収まった収まった」

 屋上に着き、紙パックのジュースを飲むかの如く、献血パックにストローを刺し、3パックほど飲み干したところで、私の吸血衝動は収まる。これで安心安心、と胸を撫で下ろしながら、屋上のベンチへともたれかかる。

「……う、」

 私はそのときに、ようやく気づいたのだ。授業中の屋上に、私以外の人間がこの場にいることを。普段なら、人の気配を読み取れないなんてヘマはしない。おそらく、久しぶりの吸血衝動に動揺してしまったため、気付くのが遅れてしまったのだろう。

恐る恐る、声が聞こえた方へ、向く。二個となりのベンチに横たわる人間の姿をとらえる。太陽の光に反射し、きらきらと光る髪色に、私は見覚えがあった。こいつは確か、

「……平和島、静雄?」





(20130911)