体育の授業。それぞれが好きな人同士でグループを決め、各自のタイミングでストレッチを始める。そんな中、私はぽつんと立ち尽くし、時間が流れるのをただ待つ。私には友達と呼べる人間はいない。自分でここにいることを決めたくせに、なぜだかわからないが、あまり人間と深く関わろうとは思えないのだ。

だから気付けば私は、いつも付かず離れずといった程よい距離感を引くようになっていた。よって、私には友達、と呼べる人間はここにはいない。私と関わりの深い新羅ですら、友達というより、幼い頃から見守っていたため、どちらかといえば、弟の方がしっくりくるし、折原臨也に至っては暇つぶしの玩具に過ぎない。なので、このようなときに一緒に組む相手がいないのだ。同性ならなおさら。

 そのためこ自由の利かない授業はいつもサボっているのだが、最近新羅とセルティに怒られてしまった。ちゃんと授業を受けなさい、と。どこの母ちゃんだよ、と内心で呟き、彼らの言うことも無視しようとしたが、生憎新羅と私は同じクラスだ。サボろう、としたら確実に新羅の耳に入るだろうし、セルティはまた怒るに違いない。結果、私はしぶしぶ折れることにした。

「あれ、ひとり? もしかして、友達いないの?」

 女子たちがグループごとにゲームを始める様子を眺めていると、目の前に卑しい笑みを貼り付けた折原臨也が現れた。いつの間に。それに男子は確か体育館でバスケットボールをやる手筈になっていたはずだ。そんなことを考えながら、「折原臨也も、ひとりじゃないか」と反論すると、彼の眉が不愉快げに動く。

「俺はいいんだよ、俺は。愛する対象を、友達にしても意味がないからね」
「あっそ」
「なに、嫉妬? 構ってあげようか?」
「結構です」
「はっはっ。相変わらずつれないないな」

 飄々とした態度で折原臨也は大げさに肩を竦めて見せる。なにが嫉妬、だ。お前のどの部分に嫉妬を覚えるというのだ。悪態を心中で吐き捨てる。そうとも知らず、折原臨也は相も変わらず楽しそうにあれやこれやと私に話しかけ続ける。

「折原臨也って、思った以上に友達がいなかったんだね」

 なんて、ペラペラと喋り続ける彼に辟易し、思わず悪態をつくと、彼は表情を青くさせ、駆け出していってしまった。突然のことに唖然とする私。今の言葉は、そんなに彼を傷つけるものだっただろうか。まさか、態度がでかいくせに、繊細な心を持ち合わせていたとは、と勝手に驚く私の耳に、地響きにも似た叫び声が響く。

「いいぃぃぃぃざぁぁぁぁやあああああああああ!!!!!!!!」

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには平和島静雄の姿があった。そして、その先には必死に逃げ惑う折原臨也の姿。なるほど、どうやら折原臨也が顔を青くさせ逃げ出したのは、彼が原因のようだ。少し残念と思う気持ちと、やっぱりと安堵する気持ち半々で私は溜息をつき、彼らの動向を見守る。

「シズちゃんってば、しつこいなあ。いいの、授業中だよ? また謹慎くらうよ?」
「うっせー!! 殺す殺す殺す!!!」
「物騒だねえ」

 軽口を叩くものの、すぐそばまで迫った平和島静雄に警戒せずにいられないのか、折原臨也の表情に余裕は見受けられない。そんな彼の姿は、私にとって少し新鮮だった。なんだ、そんな普通の男の子みたいな表情もできるんじゃないか。

変に大人びていたため、忘れていたが、彼はまだ16歳の少年だ。まだまだ、子供なのだ。当たり前の事実はずなのに、それがなんだかおかしく、私は人知れず笑った。





(20130322)