突然の問いに、折原臨也は一瞬驚いたように目を見開かせたが、それも一瞬のことで。瞬きするよりも先に、折原臨也の口元は、愉快だと言わんばかりに歪んでいた。一体、何が楽ししいというのだ。文句ありげな視線を包み隠さず、そのままぶつけると、折原臨也は肩を竦め、ため息をつく。

「さっきからカリカリしすぎだよ、きみは。カルシウムが足りてないんじゃないかい?」
「そう思うんだったら、早く私の質問に答えて欲しいもんだね」
「答えるもなにも、答えなんてもんは簡単さ。君だって知っているはずだ」

 何故、こんなこともわからないというような物言いにイライラが募る。折原臨也が私に固執する理由を私は知っている? んなばかな。

「その様子じゃ本当にわからないようだね」
「最初からそう言っている」
「俺も、最初から言ったじゃないか。俺は、人間を愛して止まない、と」
「は?」
「きみは確かに吸血鬼のハーフで、完璧な人間じゃないかもしれない。だけど、それと同時にきみの中には人間の血は流れている。吸血鬼の血と同様の容量で」

 つまりは、きみも俺の愛の対象のひとつなんだよ。そう自信満々に言い放つ、折原臨也を前に、私は開いた口が塞がらなかった。こいつが私に付きまとう理由は、私の中に、半分の人間がいるから?

 240年間生きてきて、初めてだった。私の人間の部分に興味を持った人間は。森厳を初めとした大抵の人間は、……いや折原臨也以外の人間は、私の吸血鬼の部分に惹かれ、固執していたというのに。

 体中の力が一気に抜けていく。脱力だ。脱帽だ。こんな変態を相手に、気を張るほうが間違いだ。改めて、折原臨也と向き合うと、彼は澄ました顔のまま、平然とした態度でいた。あたかも、当然のことを言ったまで、というかのように。

 ……面白い、本当に本当に面白い。自分の口角が自然と上がっていくのを感じながら、私は折原臨也を見据え、能力を発動させる。

「……っ!?」
 体の自由が利かなくなったことに気付いた折原臨也に焦りの表情が浮かぶ。


「ふふふ。舐めてもらったら困るよ。私はハーフとは言え、仮にも吸血鬼。不老不死以外の能力も持っているんだよ?」

 見つめた者に暗示をかけ、思うがままにできる魔眼が、私には備え付けられている。半吸血鬼をは名ばかりではない、というものだ。私は動けなくなっている折原臨也の手から、自身の鞄を奪取する。このような形で鞄を奪われると思ってもいなかったであろう、折原臨也は、少し悔しそうにこちらを睨む。

「じゃあな、坊や」

 その視線すらも、清々しい。立場が逆転したことに、優越を感じながら私は折原臨也を背に、歩いていく。どうやら彼は、私を新しい玩具なんかと勘違いしているようだが、それは間違いだ。私にとって、折原臨也が玩具と化すのだ。





(20130320)