「ねー。なまえって何か苦手なものはないの?」
「特にはないが、苦手というか、嫌いなものは退屈かな」
「ふーん。退屈ねぇ。まあ確かに楽しいことは沢山あった方がいいよね」


 授業が終わり、放課後になっても自分の席に座ったまま、ぼーと窓の外を見ながら日が落ちるのを一人待っていると、いつの間にか折原臨也が目の前に座っていた。そして、何をするかと思えば、あれこれと私について脈絡の無い質問を繰り返す。私も私で特に気にしていないので、のらりくらりと質問を返す。

 折原臨也。新羅の中学時代の同級生。類は友を呼ぶという言葉通り、彼も人間という存在を愛して止まないという、これまた変わり者だった。告白してきた女の子に対し、首がある子とは付き合えないなんて酷い言葉を浴びせる新羅ほど露骨ではないにしろ、クラスの女子にそそのかし、自殺に追いやったり、罪のない男子生徒をハメて、他校生と喧嘩をさせたり、と彼の偏愛が基で行われている悪行は既にいくつも挙がっている。

被害に遭った子たちを素直に可哀想だなと哀れに思うけれど、結局は他人事なため、それ以上のことは思うことはない。だから、実行犯である折原臨也に対しても、害がない以上、恐怖を抱くことも警戒をすることもない。そのため、こうして普通に会話をしているけれど、この状態に私は違和感を抱いている。

「じゃあ退屈が嫌いななまえにとって楽しいことって何?」

 違和感の原因は、コレ。折原臨也は必要以上に私と関わりを持とうとすること。新羅に紹介されて以来、ここ2週間ほど暇ある度に折原臨也は私の下に現れている。しかもこれといった用事はなく、今のようにだらだらと話を続けたり、だんまりする私を凝視したり、と一緒にいることこそが意味のあるといった具合に。

「…………」

 私に近づく人間は大体2種類に分けられる。森厳のように半吸血鬼の私を利用とする者と、私を忌まわしき存在として、滅しようとする者。一見、折原臨也は前者寄りに思われるのだが、ここ2週間の行動を見て、根拠はないけれど、なんだか違うように感じた。だが、かといった後者でもない。私が臨也の愛すべき人間ではないことは、既に新羅から聞かされているというのに。何故、こんなにも私との関わりを持とうとするのだろうか。

「俺はああやって策にハマって、大変な目に遭っている滑稽なシズちゃんを見るのが楽しくて堪らないよ」

 私が質問に答える気が無いのを察したのか、折原臨也は私と同じように目線を窓に向け、グランドで多勢の他校生に絡まれる平和島静雄を見ながら自身の意見を述べる。薄っすらと浮かぶ笑みは、蟻を踏み潰して喜ぶ、無邪気な子供を連想させる。そんな折原臨也を横目に私は席を立つ。その音に気づき、折原臨也は振り返る。

「あれ?もう帰り?」
「日が落ちた」
「ああなるほど。じゃあ気をつけてね。バイバイ」

 仲の良い友達にするような気軽さで私に向けて、ヒラヒラと手を振る折原臨也。私はそれを背にして、教室を出て行く。

 私は今まで臨也のような人間と接したことがない。だから、いくら違う気がしても、判断するための情報が足りていない以上、折原臨也が私を利用するために近づいていないと決め付けてはならない。薄暗くなった廊下を歩きながら、思う。……折原臨也は一体何を考えているんだろうか、と。





(20110202)