私は半吸血鬼だ。半というのは、言葉通り半分という意味で、漫画や小説やらによく出てくるありきたりな設定と同じように、私は人間の女と吸血鬼の男との交わりによって生まれたからだ。所謂、ハーフというもの。そして、人間でも吸血鬼にもなりきれない中途半端な存在。

 そのためか、十字架や大蒜といった吸血鬼の弱点となるものを前にしても、私は何の障害を負わない。強いといえば、日光がやや苦手なくらいだ。けれど、それはどう転がっても深刻な問題へとつながらないため、実質上、私が吸血鬼であるために苦手とするものは何も存在しない。

 寧ろ、あらゆる傷もあっという間に回復する超人染みた治癒力や、オリンピック選手顔負けの身体能力といったお得な点が多すぎる。そして、その中で軍を抜いて、目に付く能力は、不老不死。字の如く、年を取ることも、寿命で死ぬことも、ない能力。人類が、最も欲している能力。

 一応、念のためまた注意として言っておくが、私は完璧な吸血鬼ではない。だから、その能力も完璧ではない。結論から言えば、吸血鬼の血を持つ私でも、年を取る。問題は、そのスピード。人間が1年という年月に見合う成長をするのに比べ、私の成長は15年の年月を費やし、ようやく人間の1年に見合う成長をする。だから、見た目が16歳でも、実際に生きた年数は240歳というとんでもない数字になる。

 それだけ生きれば、嫌でも世界を知ることができた。そして、その世界に私は飽きてしまった。嫌々、とするほどに。だから、私は何も考えず楽に生きようと思い立ち、知り合いの伝がある、池袋の街にふらり、と足を向けては、年を取らないことを言いように利用して、ここ10年くらいずっと来神高校に通っている。

 学生という身分はいいものだ。学割という特権もあるし、何より何も考えなくていいというのは素晴らしい。呆然と惰性的に過ごしても、文化祭、体育祭、マラソン大会、といった少しの刺激物もある。高校という場所は退屈しのぎにはもってこいの箱だ。



「入学式、ね」


 と、まあ自身についてと、能力を巧い具合に乱用し、高校に寄生する経過を脳内で再生したところで、ちょうど来神高校の前にたどり着く。校門近くには申し訳なそうに『入学式』と書かれた板が立っている。その文字を目でなぞりながら、この文字を何回読んだだろうか、と大した新鮮味を感じることなく、いつもと同じように校内へ足を踏み入れた。





(20110124)