「なまえ、ありがとうな。おかげで幽にピッタリなプレゼントが見つかった」

 犬を連想させるような(厳密に言えば、ゴールデンあたり)眩しい静雄の笑顔に、私の口元は自然と緩む。思えばいつも静雄に礼を言われているような気がする。人の役に立てることは実に、喜ばしいことだ。私みたいな存在ならば、なおさら。

「いや、気にしなくていい。私は少しの助言をしただけだし。弟くん、喜ぶといいね」
「ああ」

 満足げに頷くと、静雄は「じゃあな」と言って、身を翻す。その背中を私は、見送った。

 休日である土曜の日に、静雄と会ったのはひとつの理由があった。屋上で静雄とだべるのが日課のひとつになりつつあるそんなある日、静雄にお願いされたのだ。弟の誕生日プレゼント選びに付き合って欲しい、と。

最初は驚いた。こんな私にお願いごとをする人間が現れるとは思っていなかったからだ。明白な人選ミスを静雄に主張したのだが、静雄は聞く耳を持たなかった。そして、半ば強引的にこうして買い物に駆り出されたわけである。しかし、あの満足そうな静雄を見る限り、どうやら静雄の目的達成の力になれたらしい。

プレゼント選びの際に店を歩き回ったせいもあって、体には適度の疲労が蓄積されている。その上、静雄の役に立てたという達成感もあって、今日はなんだか気分良く寝れそうだった。なんて、やけに年寄り臭い考えを浮かばせながら、岐路に着こうと振り返った瞬間だった。

「おっと。動くなよ。少しでも動いたら、首の皮が切れるからな」

 見知らぬ男に背後を取られ、首にはナイフと思わしき刃物を突き立てられる。しまった、油断した。まさか、人間ごときに背後を取られるなんて。男の言葉に従いながらも、横目で声の主を伺ってみると、格好こそ少し大人びているように見えたが、顔立ちから察するに、高校生か大学生ぐらいの少年だった。

 それに、背後の少年が現れてから気付いたのだが、少年以外にも少年と同じような匂いがする人間が何十人にも周囲を囲っていた。面識のない彼らが一体、私に何の用が、と思ったが、その理由はすぐにわかった。私にナイフを突き立てた少年が叫んだのだ。遠くなりつつあった彼の、平和島静雄の名前を。

「この前はよくもまあかわいがってくれたなあ。そのお礼によぉ、俺もてめえをかわいがってやろうと思って、仲間を引き連れて来たわけだよ」

 静雄を挑発するように、私の首によりいっそうナイフを突き立てる少年。怨恨だ。きっと、少年は静雄に倒された人間の一部なのだろう。その恨みを晴らすために、静雄の下に現れ、そして一筋縄ではいかない彼の防衛線となるために、私を人質にとったのだろう。

なんともわかりやすい戦法。それでは静雄に負けるのは当然だ。勝つためには、もっと狡猾にことを進めなければならない。どっかの誰かさんのように。





(20130918)