「あ、あの! みょうじさんのことが好きですっ!!」

 食事をとり終え、昼休みの残りの時間を自席で頬杖をつきながら呆けていたとき、名も知らない少年に呼び出された。やけに緊張をしているように見える彼を不思議に思いながら、ついていけば、少年から吐き出された言葉は、愛の言葉だった。

「へ?」
「あっ、いきなりこんなこと言われたらびっくりしますよね!いやその、なんていうか、」

 先程とは違った意味で呆ける私に、少年はあれやこれやと言い訳を羅列し始める。少年の話を要約すると、入学式に見かけたときから気になっていた。で、見続けているうちに好きになってしまった、とのこと。つまり世間一般的に言われる、一目惚れと呼ばれるものを、少年は私にしてしまったのだろう。

 少年とは一度も面識はない。クラスも違う。厳密に言えば、接点は来神高校の一年である、ということの他、ひとつもない。なのに、彼は私に惚れた、と言う。私について、何も知らないはずの、彼が。

「私のどこが、好きなんだ?」
「雰囲気、かなあ」

 彼は頬を赤らめ、そう答える。雰囲気、か。なんだそれは。折原臨也にあやかるようで少々癪だが、情報は、相手を知るにあたって、必要不可欠なものだ。生年月日、血液型、好物、といったポピュラーなことから、恋愛遍歴、性癖といったディープなことまで。本来ならば、そういった情報を集めた上で、好意か敵意のどちらを抱くべきなのである。ましてや、ただ眺めていただけで好意、と錯覚するのは、言語道断。

「ありがとう。でも、ごめん」

 そう、冷静に彼を分析してしまう、自分が私は嫌いだ。例え、相手が青臭い人の子だったとしても、好意を寄せられるのは悪いことではないはず。思いに応えるか、どうかは二の次として、素直に喜べばいいのだ。なのに、私にはそれはできない。

 論を進めれば、行き着くのは、好き、という感情への理解だ。私にはわからない。好きというのがどういうものなのか。だから、私にとっては未知なるものでしかなく、恐ろしい。そして、私が半吸血鬼であることも、225歳であることも、何も知らないくせに、その未知なる思いをぶつけてくる人間たちが、怖かった。





(20130916)