テスト。それは、学生が最も恐れるであろう強敵。その時期になれば、みんななぜかピリピリとし始め、教室の中では殺伐とした空気で充満する。と、いっても十年もこの学校に寄生している私にとって、テストだろうがなんだろうが、関係のない話だった。さすがの馬鹿でも嫌と思うほどに同じ時期、同じような問題を何度もやれば、自然と覚えてしまうものである。なので、私にとって赤点は、縁の縁もないものだった。

 私自身はもちろん、折原臨也もああ見えて要領がいいので、赤点なんて取るわけないだろうし、新羅は新羅できちんと授業を受けているので、取るわけがない。だから、周囲で赤点、なんて言葉を聞くことはないだろうと思っていたのだが……。

「英語で赤点を取って、課題を出されただと?」
「ああ」

 そう言って、静雄はバツの悪そうな表情を浮かべては、首の裏を掻いた。

 放課後。わたしは、ようやく強い日差しが収まったので、岐路につこうと廊下を歩いていた。そのときに教室で一人、なにやらぶつくさと文句を言いながら机に向かっている静雄の姿を偶然見つけた。一体こんな時間まで彼は何をしているのだろう、と不思議に思い、彼に訊いて見れば、まさかここで赤点という言葉を聞く羽目になるとは。

 静雄が赤点を取るまでに勉強が苦手だったとは、正直初耳だった。なので、英語は嫌いなのか、と訊いてみると、静雄は歯切れの悪い言い方で肯定をする。そこで、私は察する。この赤点には、折原臨也が関わっている、と。

「はあ」
「なまえ?」
「手伝うよ、静雄」
 ため息をひとつ吐いた後、椅子を引き、静雄の向かいの席へと座る。

「は? なんでおまえが? これは、俺の課題だ。関係ねえだろ」
「気にしなくていい。これは私の勝手な行動だよ。それに進んでなくて困ってんだろ?」

 静雄の机の上に、無造作に広がるプリントを指をさしてそう言えば、静雄は押し黙った。こんな時間まで残っていることから薄々感づいていたが、どうやら課題の進行は芳しくないのは、図星だったらしい。静雄の返事を待たず、私は適当にプリントを取り、解答欄を埋めていく。

 口ではああ言ってたものの、課題を手伝ってもらえるのは、ありがたかったのか、しばらくすると、静雄は「サンキューな」とぼそり、と呟く。素直じゃない静雄に思わず笑みがこぼれる。普段のわたしは、あまり人と深く関わろうとはしない。だが、静雄が困っているところを見ると、なぜだか助けたくなる。それは、折原臨也によって迷惑を被る、被害者同士だからなのだろうか。





(20130916)