吾輩は猫である、なんてありふれた冒頭で始める気は毛頭ない。
独創性、つまりオリジナリティが人生には必要だと、わたしが深く信じているからである。

────・・・まぁ、わたしは猫なんだけどね。






らららのら






ふわふわと風にそよぐまっしろい毛並みは、自分でも見とれる程に美しい。
筋を軽く動かすだけでゆらゆらと揺れる尾はとても長くてしなやかだ。
自分では見えないけれど、わたしの両目はきらきらと輝くエメラルドグリーン。
太り過ぎでも痩せ過ぎでもない適度な適正体重を守る身体は、素早さとある程度の強さを兼ね備えている。

わたしは猫。
しがない白猫。
そこらの猫よりは美しい身体を持っているけれど、それでもわたしはただの猫だ。
特技はちょっと特殊だけれどね。



「やぁ、今日も日向ぼっこしてるの?」
「にゃあ」



淑女の如く淑やかな返事を返し、一人(一匹、という方が良いかも)で占領していたベンチの半分ほどを開けてあげる。
彼の顔を見上げて尾を軽く振って見せると、彼は穏やかな笑みを浮かべて空いたスペースに腰を下ろした。
わたしと同じようなふわふわの毛と人間にしては珍しい青っぽい瞳。
動作に気品があって声の響きが好きだから、わたしはこの人間が来たらベンチに座らせてあげている。
他の誰にもした事がない、最上級の特別待遇だ。



「一日中日向ぼっこしているの?」
「にゃあ」
「そうなんだ。だからそんなに綺麗な毛をしているんだね」
「うにゃ」
「俺は今日も家で過ごしてたよ。庭の花をいじってたんだ」
「にゃおーん」



きっと彼は、わたしの言葉の一単語も理解してはいないだろう。
ただ思う事を呟いて、それを理解することができるわたしが静かに言葉を返す。
いつまでも意思の疎通が取れない、無駄な会話の応酬。

それでもわたしは言葉を返す。
全てが無駄になると分かっていても、ぽつりぽつりと言葉を返す。



「君はどこに住んでいるの?」
「にぃ」
「首輪は……ないね。野良猫かな?」
「ふぎゃあっ!」



野良猫だなんて失礼な。
確かにわたしに保護者となる人間はいないけれど、それは捨てられたからとかではなくわたしが自律している証なのだ。
それに、首輪なんて。
あんなものを首につけている猫の気がしれない。しりたくもない。
一人じゃ生きていけないと自分で主張しているようなもので、それは一種の恥さらしでもある。

わたしの怒りはさすがに伝わったのか、彼は驚いたように身をすくめた。
じぃっとその目を見返すと、彼は曖昧な笑みを浮かべてみせる。



「野良猫が気に障ったのかな。ごめんね、怒らせるつもりはなかったんだよ」



そう言いながらゆっくりと延ばされた手が、わたしの背中を優しく撫でる。
誰かに撫でられるなんて許せないと思うけれど、彼になら撫でられても構わないと思った。
それに、こうして背中を撫でられるのもなかなか気持ちがよくて、知らないうちに喉が鳴ってしまっていた。

ごろごろ、ごろごろ。

彼は小さく声を上げて笑い、わたしの背中を撫で続ける。
その動きに身をまかせながら、しどけなく目を細める。
いつの間にか沈みかけていた太陽が、綺麗な色で輝いていて、それがとても眩しかった。





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