全てを拭い去ることなどできない

そんなこと分かりきっているから






綺麗好きな夜を引き裂いた






掃除と蓮二が表現した動作は、およそ常人が思い浮かべるそれとは遙かにかけはなれていた。
強いて言うならば開拓、もしくは探索か。
真っ暗な室内を不安定に揺れる蝋燭で照らし、光の届かない所は手探りで確認しながら大量に積み上げられている物品を始末していく労働を、他にどう呼べばいいか見当もつかない。


「ねぇ、これ、一体何なの?」


舞い上がる埃と始末しても始末しても底の見えない得体のしれない物品たちに嫌気がさし、思わず声を上げたのは作業を開始してから数時間が経っていたと思う。
少し離れた所で写真立てのようなものを磨いていた蓮二はそれを近くのテーブルに置きながら、こちらを振り返った。


「仁王が廃城だったここを住めるようにした、と話したはずだ」
「うん、聞いた」
「仁王は確かに廃城で床板が抜け、窓が割れていたこの城を住めるようにはした。だが、仁王一人ではこの城全体を直す事などできる筈もない。さらに、一人で住むのならそんなに広い範囲に手を入れる必要もないだろう?だから、この城のほとんどがまだこういう……」


蓮二は低く呟きながら、すぐ傍にあった箒と蜘蛛の巣が合体した未知の物体を掴み上げ、少し離れた壁を這っていた蜘蛛にそれを叩きつけた。
蜘蛛はひらひらと壁から舞い落ち、山積みになった品物のどこかに埋もれて見えなくなった。


「未開拓の状態になっている。それも、仁王が他の部屋の要らない物を適当に放り込んでいるものだから、こういう無法地帯になっているんだ」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
「あぁ。だから蜘蛛や鼠や百足やらがそこら中に生息している。蜘蛛と鼠は無視してもいいが、百足には気をつけろ。刺されると、しばらく痛いぞ」
「分かった」


危険を告げられると、先ほどのように暗闇の中を手探りで作業を進めることに抵抗を覚えた。一歩先の闇に百足がいそうで気味が悪い。
蝋燭をずるずると引きよせ、そっと闇の奥を照らしだす。きらり、と何かが輝いたような気がして慌てて手を止めた。


「……鏡?」


おそらく、割れてしまったのだろうと思われる数十センチサイズの鏡の破片。破片の大きさからすれば、元の大きさは相当なものだろう。
先ほどの輝きはこれが蝋燭の光を反射したものに違いない。今も蝋燭の光の加減でゆらゆらと不気味な影をつくっている。
手を切らないようにそれを覗き込むと、いつもと変わらない暗い色の瞳が見返してきた。他に妙なものが映っていなかったことに安堵の息を吐き、そっと視線を外す。

ちっとも片付いた感が湧いてこない室内を見渡し、小さくため息をついた。
作業を始める前、蓮二が浮かべた憔悴の表情の理由が理解できたような気がした。きっと今の俺も同じような表情を浮かべているのだろう。
鏡の破片は廃棄するものを集めている一角に片付け、蝋燭を頼りにしながら作業に戻る。

光を反射する鏡の奥で誰かが泣いているような気がしたけれど、耳を澄ましても誰の声も聞こえてこなかった。






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