精市へ


また手紙を書きました。届かない事は分かっているけれど、でも何もしないと精市を忘れてしまいそうだから。
今、目の前に蓮二がいます。あの見えてるのか分からない目で私を見てるよ。
きっと私は蓮二に迷惑をかけてるよね。だって、届かない手紙を何通も何通も書いてるんだもん。
あなたに書く手紙はこれで何通目なんだろう。書くたびに捨ててしまったから分からないけど、たぶん十通は越してると思う。
自分で言うのもなんだけど、私馬鹿だよね。


ねぇ、聞いて、精市。
あなたがいなくなって、とても悲しいの。でも、みんなすごく優しくて、それが嬉しいと思うの。幸せだと思うの。
特に蓮二が優しいよ。いつも傍にいてくれるし、精市の話を聞いてくれる。
だから、本当の事を隠しているのがすごく辛い。嘘をついてるって知ったら、蓮二は怒るかな。

蓮二が怒ったら怖いから、ここで謝らせてね。
ごめんなさい。嘘をついて、心配かけて、馬鹿なことばっかりしてごめんなさい。
……ここで謝っても意味がないんだけどね。
こんなこと書いてるから、いつもは書きながら内容を見せてるのに、今日は見せてないよ。目の前にいるから、隠すのが大変。


あ、すごい事言われたよ。この手紙、預かってくれるんだって。精市のいる病院に届けてくれるって言ってる。
私がついているのと同じように蓮二も嘘をついてるって、この前の手紙に書いたよね。蓮二の優しい嘘の中では、精市は転院したことになってるの。
本当に、そうだったら良かったのに。

にしても、蓮二ってどうしてこんなに優しいんだろうね。
私はずっと蓮二の傍に居たのに精市と付き合ってていつも蓮二に迷惑をかけてたし、相談とか一杯しちゃって、きっと鬱陶しく思われてたはずなのに。
うーん……考えても分からない。精市なら、理由が分かる?
私は長年蓮二と一緒に居るけど、いまだに蓮二の事がよく分かってないみたい。きっと、精市の方がよく分かってるよ。
とりあえず、分からないから幼馴染みだからってことにしておこうかな。


今日はここまでにしておくね。今から、これを蓮二に預けます。
精市に届くことはないと思うけど、届いてるかもしれないと思ったらなんだか嬉しいね。
また手紙を書くから、楽しみにしてて。


彰子より






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