木の陰で木漏れ日を感じながら、彼に勧められた本のページを捲る。
ゆっくりと広がっていく新たな世界を心に収めながら、ゆっくりと物語を辿っていく。

彼が進める本は現実的なものから時代物、そしてファンタジーと多種多様だった。そのどれもが面白く、今ではすっかり読書の虜になっていた。
図書室通いが日課になり、読み終わった本の感想を彼と言い合う。最近では本を読みながら、彼はこれについてどう感じたのだろう、俺と同じような事を考えただろうかと考え込むようになっていた。

そよぐ風に揺られる髪を抑え、また一つページを捲った。
この本ももう少しで終わる。そうしたら、彼にそれを告げて一緒に図書室に行こう。
そして新しい本を借りて、部活への道すがら本の評定を話し合うのだ。
その時間について思いを馳せると、自然と頬が緩んだ。そのまま漏れそうになる笑いを慌てて抑え、本に意識を集中させる。

ページを捲るたびにラストに近づいていく話の内容が、最大の盛り上がりを迎えている。
胸を躍らせながら文字を追い、残りわずかな本の厚さに焦燥を覚えながらページを捲ろうとして。



「幸村君」
「………ちょっと、待って」



かけられた声に顔も上げず、半ばぶっきらぼうに答えた。はい、と微かに笑みを含んだ返事を聞くともなしに耳に収め、ひたすらにページを捲る。
ふと隣に現れた気配に気づき、その誰かが同じように本を広げるのを視界の端に収める。

クライマックスを終え、エピローグの後味を堪能して顔を上げると、隣で本を読んでいた柳生も顔を上げた。
ちらりとその本に視線を走らせれば、数文読んだだけでそれが時代物なのだと知れた。



「終わりましたか?」
「うん、ごめんね」
「読んでいたのを邪魔した私が悪いので、気にしないでください」
「この本、面白かった。ラストが予想外で、意表を突かれたよ」
「その作者はそういった展開のものを多く書いています。私もその方の本を読むたびに、どきどきしながらラストを想像しますよ」
「他の本を読むのが楽しみだなぁ」
「喜んでいただけて良かった。本を読み終わったのなら、今から図書室に行きませんか?」
「うん、行こうか」



もたれ掛かっていた木から腰を上げ、二人揃って本を抱えて歩く。
意表を突くのが好きだという作者について話を膨らませると、柳生が穏やかな笑みを浮かべて答えてくれる。
さんさんと降り注ぐ日差しだけが俺たちを見送っていた。





図書室には図書委員と数人の生徒しかおらず、閑散としていた。
読み終わった本を返し、新たな本を借りるべく本棚に向かう。



「同じ作者の、この本がお薦めですね。先ほどの本はファンタジーでしたが、こちらは純文学です」
「じゃあこれにしようかな」



勧められたのは先ほどのものよりもかなり分厚い本だった。けれど、柳生が勧めるくらいなのだから、内容は良いのだろう。
貸出の手続きをとり、静かな図書室の一角に腰を落ち着ける。あの木の下も静かでよかったが、図書室に静けさのほうがやはり読書には向いていた。

新たな本を広げ、プロローグを読み始める。それを読み終え、さらに少し読み進めたところで違和感に気付いた。
ちらりと向かい側に視線を向けると、微笑ましげに細められた一対の瞳がこちらを見ていた。
ばっちりと目が合ってしまって、思わず目を逸らす。
そっともう一度確認すると、やはり柳生がこちらを見ていた。


「……どうかした?」
「あぁ、これは失礼しました」
「いや、別にいいんだけど……俺、何かしたかな?」
「いえ、あの………何と言いますか………」



困ったように視線を彷徨わせ、柳生が言葉に詰まる。普段から饒舌な彼にしては珍しい光景だった。
黙って言葉を待っていると、遠慮がちな小さな声が上がった。



「あんまり……楽しそうに読むものですから。思わず、見とれてしまいました」



予想外の言葉に目を見開き、俺は思わず声をあげて笑った。
一瞬後に慌てて口を塞ぎ、こちらに向けられた視線に頭を下げる。全ての目がこちらを離れるのを待って、申し訳なさそうな柳生に向かって微笑む。



「びっくりするじゃないか」
「すいません」
「別に謝らなくても良いけど……」
「ですが」
「え?」
「本心ですから。なので、撤回はしません」



あんまり断固とした口調で言い放つものだから、思わず吹き出してしまった。
周りの目を引かないように、笑いあいながら分厚い本に視線をやる。

どうやら、彼も意表を突くのが好きな人間のようだ。きっと、物書きになったらこんな物語を書くだろう。
他愛のない事を考えながら笑みを浮かべたまま本に目を向ける。
また視線が注がれているのを感じたが、もう顔は上げなかった。







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