何故、男女の交際は許されているのに、男同士の交際は許されていないのだろう。
それは今現在、俺を悩ませている大きな疑問だ。
理由を上げるならば、種の存続だろうか。
男と男では子を為せない。それが禁止の理由だろうか。
そんな事を考えてみて、けれど答えはなかなか出てこない。
どうしてなのだろう。それが分かれば、俺はもっと彼を愛せる気がするのに。





「好きなんです。付き合ってください」
「悪いが、それはできない」
「何で、ですか?」


できないと言っているのだから、あっさりと諦めれば良いのに。
こうやって理由を尋ねてくる相手は苦手だ。
何と答えたって、必ずごねて、いくらでもケチをつけてくる。
諦める、ということが美徳だと知らないのだろうか。


「俺は今、お前以外の相手と交際している。よって、お前と交際するわけにはいかない。これで良いだろうか?」
「誰、なんですか?その相手って」
「聞いてどうするつもりだ?嫌がらせにでも行くのか?」
「そんなこと!……ただ、聞いてみたくって」
「ふっ……」


少しだけ開いていた距離をゆっくりと詰め、その顔のすぐ傍で薄く笑う。
この答えを告げた時、彼女は一体どんな反応をするだろう。


「幸村だ」
「……え?」
「幸村精市。それが俺の交際相手。どうだ、満足したか?」
「………最低!」


振りあげられた手を咄嗟に掴むと、女は唇を戦慄かせて叫ぶ。
その形相は今にも泣き出しそうな、そんな顔をしていた。
聞きたいと言ったのは相手なのに、これでは俺が泣かせたように見える。


「人が必死の想いで告白したのに……そんな冗談で断るなんて!」
「冗談?」
「男同士で付き合ってるなんて、馬鹿じゃないの?そんな理由で断らないでよ!」


そうか、馬鹿らしいのか。
やはり、それは子を産めないという理由だろうか。
それとも、他に何か理由があるのだろうか。

それについて尋ねようとしたけれど、その前に女は身をひるがえして教室を飛び出してしまっていた。
それと入れ替わりに入ってきたのは、先ほど馬鹿らしいと言われた行為の相手だ。
そこらの女よりも綺麗な顔に嘲笑を浮かべ、ゆっくりと近づいてくる。


「修羅場だね」
「そうか?俺にはどうでも良い事だ。ちょっとしたデータは取れたが……」
「馬鹿らしいってさ」
「ああ。お前は何故だと思う?俺は種の存続的な問題だと思うのだが」
「何が?」
「男同士の交際が認められていない理由だ」
「へぇ、そんなこと考えてるの。別に何でもいいと思うけど」


気だるげな動作で机に腰掛けながら、彼は首をかしげて笑う。
その髪に手を伸ばすと、くすぐったそうに身を捩られた。
逃げてしまう小鳥を捕まえるかのように、その身体を抱き締める。
慣れ親しんだ体温が、ゆっくりと俺の身体に浸透していく。

こうして抱き合う事があっても、これ以上の行為に発展することはない。
お互いに快楽に溺れるような低能な感覚は持っていないし、その先に待つものが悲しい虚無感であると分かっているからだ。
どれだけ愛しても、どれだけ求めても、子は為せない。
その事実は、いつでも二人に圧し掛かる。


「そうだね……強いて言うなら、ただの嫉妬じゃない?」
「嫉妬、か。なるほど、そういう考えがあったか」
「人はね、こうやって愛し合う人間を見るのが辛いんだ。自分にその相手がいない時には、とてもね。だから、男同士の恋愛は禁止されているんだよ。だって、まともな男なら、女と付き合うよりも男と付き合った方が良いって分かるだろ?」
「そうだな。何より、相手を奪われる心配をせずに済む」
「ふふ、それは俺のセリフでもあるよ」
「俺は女を愛したりしない。お前といる方がよほど楽だ」
「うわ、楽なんて理由で俺と付き合ってるの?」
「冗談に決まっているだろう」


薄暗い教室の中を満たす微かな笑い声。
お互いに混ざり合う体温が、二人の心を埋めていく。
喪失感も虚無感も、何もかもを、綺麗に。

別に、良い。
誰に認められなくても良い。
彼が俺の傍にいて、俺が彼の傍に居られるならば、それで。
それ以上の事は何も望みはしない。
だから、と抱きしめる手に力を込めると、彼はゆっくりと目を閉じた。


「いつまでも、こうしていられれば良いのにね」
「ずっと二人で、か?」
「そうだよ。ずっと二人だけで、いられれば良い。それ以外には望まない」
「……そうだな」


誰が男同士の交際を禁じたのだろう。
禁じるほどなのだから、きっと昔にもこうして愛し合っていた人間が居たに違いない。
顔も知らぬその人たちも、迫害を受けながら罪深く愛し合ったのだろうか。
そんな事を考えて、その虚しさにため息を漏らした。

手の中の温もりがいつか奪われるというのなら、俺はきっとその運命に逆らうだろう。
その先に醜い死しかなくとも。例え、未来に繋がる希望がなくとも。
その時も、彼は俺の傍にいてくれるだろうか。





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