「この世には永遠なんてものはありません」
「どうして?」
「私もあなたも、いつかは死んで消えてしまいます。その後に続く空白が永遠に値するとあなたは思いますか?」
「うーん、と……分からない。難しすぎて、全然理解できない」
「そうですか」



それは残念です、と柳生は呟いて眼鏡のブリッジを押し上げた。
難しすぎる柳生の言葉の意味を噛みしめながら、私は彼の腕の中でたくさんの事を考える。
さっきの言葉は私の質問に対する答えだ。その質問と彼の答えを吟味しながら、私はもう一度彼に問いかけた。



「ねぇ、私を永遠に愛してくれる?」
「……全く、先ほどその答えを述べたばかりだと思いますが」
「うーん……でも良く分からなかったから、もう一回」
「仕方ありませんね……よく聞いてください」



はぁと大げさなため息をついて、彼は私の頬に手を触れさせた。
その温かさがいつか消えてしまって、私は一人ぼっちになってしまうだなんて信じられない。私の傍に柳生がいて、柳生の傍に私がいて。それが当たり前なのだと、そう思っていたから。



「私はあなたを愛しています」
「うん」
「それは私が生きている限りずっと続く揺るぎない愛です」
「うん」
「ですが、それが永遠に続くことはありません」
「……どうして?」
「先ほども言いましたように、私もあなたもいつかは死にますよね?」
「死ぬね」
「そうなったら、離れ離れになってしまうでしょう?」
「なっちゃうね」
「死んでしまった後の死体が人を愛せると思いますか?」
「……どうだろう。無理、かな」
「以上の事を踏まえれば、私があなたを永遠に愛することはできないのです」



柳生と私はいつか死んで、ばらばらになって、死体になって、愛することということ自体ができなくなってしまうから、だから柳生は私を永遠に愛することはできない。
ぼんやりと濁った頭の中でその言葉がぐるりぐるりと回った。
彼の眼鏡の奥の瞳に虚ろな目をしている私が映っていて、その中の私は口を少し開いてぼんやりと焦点の合わない瞳をしていた。



「じゃあ、さ」
「ええ」
「私と柳生はどうして違う生き物なの?」
「一緒の生き物が良かったんですか?」
「うん。だって、同じ生き物だったらずっと愛していられるし、一緒に死ねるから寂しくないよ」
「そうですね……確かにそれは一理あります。ですが、その場合私とあなたは同じものですから、意識の区別がなくなってしまい、個体としての存続は難しいと思いますが」
「うーん、よく分からないけど、無理?」
「ええ、無理です」



はっきりと言い切る彼の手を掴んで、ほんの少しだけ爪を立てた。でもどんなに彼の中に入ろうとしたって、結局のところ私は異物だ。彼の中にはなじめないし、むしろ彼を傷つけて壊してしまう。
彼は痛そうに顔を歪めたけれど何も言わなかった。それをいい事に私はさらに爪を食いこませ、赤い血が爪ににじむまで力を込めた。
ぺろり、と舐めると少しだけ甘いしょっぱさが口中に広がって、思わず口元を緩めてしまう。



「何笑ってるんですか」
「美味しいな、って」
「変な性癖に目覚めないでください。人は美味しくありません」
「そうかなぁ……柳生は美味しいよ」



ぺろり、ともう一舐め。やっぱり美味しい。



「あぁ、分かった」
「何がですか?」
「私と柳生が一緒に死ねばいいんだよ。手を繋いで二人同時に。そうしたら、手を繋いだまま魂も一緒に居られるかもしれない」
「そんな馬鹿なことを試すために死ぬんですか?」
「いや?」



小首をかしげて彼に問う。
彼は笑って、私の口元を人差指で拭った。さっき、眼鏡を押し上げた指だ。
指の先についた赤い色を口元に運び、美味しそうに舐めて笑う。



「いえ……そんな酔狂さも私は好きですよ」





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