彼女の瞳はとても綺麗だった

けれどそこに、俺が映ることはなかった





今、僕が壊してあげる





彼女の眼はいつだって俺を通り越していた。
隣で並んで歩く帰り道、つまらない授業をさぼっている時の屋上、そしておよそ中学生らしくない情事の時。

彼女の眼に俺が映ったことはない。
いくらそこに俺の存在を見出そうとしても、彼女の頑なな心はそれを受容しようとはしなかった。


「のぉ」
「なあに?」
「なんで、俺と付き合う?」
「なんで、って……」
「お前さん、幸村が好きなんじゃろ」
「……どうして、知ってるの」
「見てたら分かるぜよ」


よくよくじっと観察すれば、の話だけれども。
その言葉は呑み込んで、じっと狼狽したように顔色を変える彼女を見つめた。
彼女は青くなったまま俺を見返し、その薄い唇をぎゅっと噛みしめた。


「確かに、幸村君は好きだよ。でも……」
「それ以上に俺が好き、とでも言うつもりか?」
「そうだよ!じゃなきゃ、付き合ったりしない!」
「嘘じゃな」


何かを言いかける彼女を制し、俺は淡々と言葉を紡ぐ。
これで彼女と俺の関係が壊れてしまったとしても、それはそれで構わないと、そう思っていた。


「俺は詐欺師じゃ。そんなちゃちな嘘で、詐欺師を騙せるわけなかろ」
「………嘘、じゃ、ない」
「お前さんが俺と付き合うのは、埋まらない心を埋めるためじゃ」
「ちが、」
「寂しい、辛い、苦しい。見つめるだけじゃ足りない。だから、代わりになるものを探して、見つけた」


それが、俺。
そう言って俺自身を指してみれば、彼女は泣きそうな顔で俺を見つめた。

謝罪、困惑、動揺。
その全てが込められた眼を見つめながら、そこにやはり俺自身が映っていないことを確認した。
こんなに揺さぶっても、彼女はあいつのことを忘れようとしない。
心の隅にあいつを浮かべて、俺を拒絶している。


「それでもええって、受け入れたんは俺じゃき、今さら嫌になったとは言わん。じゃけど、苦しいのはお前さんの方じゃなか?」
「………別に、苦しくなんか」
「埋めようとしても、俺じゃ埋まらんじゃろ。俺と幸村の差に絶望するんは、お前さんじゃ」
「違う!どうしてそんなこと言うの。私は雅治が好きだから付き合ってるんだよ。他に何の意味もないよ!」
「ほうか。じゃあ、幸村がお前さんの事気に入っとるって言っても、お前さんは何も思わんのじゃな?」
「っ……!」


息をのむ音が響いて、俺は無言のまま動いた。彼女の細い手首を掴んで、噛み締められている唇をぺろりと嘗めた。
いきなりの事で、喘ぐように口を開いた彼女ににやりと笑みを浮かべてみせる。


「い、やっ!」
「なんでじゃ?お前さんは俺の事が好きなんじゃろ?」
「う……!」


貪るように口内を舌で蹂躙すると、細い腕が抗うように俺の肩を叩いた。その抵抗に煩わしさを覚え、両手ともまとめて拘束してしまう。
怯えたように見開かれた彼女の瞳に、初めて俺が映っているのを見た。
透きとおった綺麗な瞳の中に、俺だけが存在していた。


「ええ目じゃ」
「やめて、いや!」
「付き合っとるんじゃけん、ええじゃろ?」
「や、私は……!」
「ほら、やっぱり幸村が好きなんじゃろ」
「ぁ……!」


今度は否定がなかった。
ほろりと零れる涙が彼女の恋情を証明しているようで、自分でこんな状態に追い込んだくせに、苛立つ心を抑えきれなかった。


「お前さんは、俺のもんじゃ」
「ゃ…!」
「お前さんがそれを望んだ」
「ち、が……」
「その眼に、俺だけを映せばええ」


それだけで、俺は満足できる。
例え、君の心が手に入らなくたって。

例え、君の心が壊れてしまったって。


「苦しかったら泣けばええ。じゃけど、誰も来んよ。幸村も助けには来てくれん。じゃけん……」


大人しく、俺に壊されんしゃい。


ひっそりと囁いた言葉に、彼女が悲鳴をあげる。
それを意識の片隅で聞きながら、ゆっくりと彼女の服に手をかけた。


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企画「PAPER MOON」様に提出





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