罰と称し下されたのは、一週間の謹慎処分。
薄暗い牢獄の中、たった一人で頭を冷やせと告げられた。
食事は貰えるけれど、周りには誰もいないし、何の音も聞こえてこない。
普通なら孤独に押し潰されてしまいそうになるんだろうけど、私は少しも気にならなかった。
だって、物々しい鉄格子が取り付けられた窓から、綺麗な月が見えていたから。
その空が彼らと繋がっているような気がしたから。
だから、迫る暗闇も募る孤独感も、私の心には入ってこない。

彼らはもう戦い始めただろうか。
それとも、まだ出会っていないだろうか。
出会っていなければ良い。この戦いが終わるまで出会わずに、戦わずに済めば良い。
そう願うけれど、それはきっと叶わないだろう。
どちらにも死んで欲しくない。
私にはきっとどちらも選べない。
先に出会ったのは白銀の方だけれど、名前も知らないあの人に私は心惹かれてしまった。
何故だろう。どうしてなんだろう。
理由も分からないこの想いを消すことはできるだろうか。

月を映していた視界が、不意に歪んだ。
どうしようもないこの感情に、私は溺れている。
岸の見えない海に漂うように、流されるままどこかへ向かっている。
海で生まれる波に揺られ、私は生きていくしかないのだろうか。



「どうか……どうか、ご無事で」



小さく呟いた言葉は、一体誰に向けられたものだったのだろう。










何度も繰り返された剣戟を経て、俺たちはまた睨み合っている。
どれだけ時間が経ったのかは分からないけれど、今までで一番長く向かい合っているはずだ。
彼の冷たい瞳に睨みつけられ、俺の心は萎縮していた。
疲労が重なり思うように動かない腕が、かろうじて剣を握っている。
それはきっと彼も同じで、お互いに次の一撃が最後だと気づいているだろう。
一体どれだけ続いたのか分からないこの戦いに、終止符が打たれようとしているのだ。



「最後、じゃな」
「そうだね」



静かに息を整えて、握り慣れた剣を掴み直した。
決着は、つかないような気がしていた。
この勝負の終わりはきっと無いのだと思っていた。
だって、二人の実力はずっと互角だったから。

二人揃って走り出す。
振りあげた剣が光を反射して、きらりと輝いた。
金色の目が獰猛な獣のように細められて、その唇が笑みの形に歪められる。
迫る一瞬の邂逅と刹那の走馬灯。何が見えたのかすら、分からなかったけれど。


気づけば、すぐ目の前に彼の銀髪があった。



「……え?」
「ぐっ……」



終わらないと、そう思っていたのに。
彼は受け止めると、そう信じていたのに。
俺の一撃は、確かに彼を傷つけていた。
そんなことはあり得ないはずなのに。
傷つけて、しまうなんて。



「どう、して────…」



俺の呟きと同時、馬鹿みたいに突っ立っている俺の目の前で、彼が倒れた。
鈍い音と粘った水音。からん、と剣が落ちる音。
それが聞こえて初めて、これが現実なのだと理解した。
月明かりに照らされて、彼の傷から血が溢れ出ているのが分かった。



「俺の、負けじゃな……」
「なんで……」
「何ちゅう顔しとんじゃ。お前さん、勝ったんじゃろ」



微かに荒れた息。
途切れる言葉はそれでも明瞭だった。
最後の力を振り絞るみたいにして、彼は言葉を発している。



「早く瑠璃のところに行って、二人で逃げんしゃい。それが望みだったんじゃろ?」



そう、それが俺の望みだった。
彼女と一緒に、遠くへ。
それを叶える為に、俺はこの戦で戦ったのに。

でもそれは、彼を殺してしまいという衝動ではなかった。
彼に勝ちたいだけだった。
彼が憎かったわけじゃない。
彼を恨んでいたわけじゃない。
ただ、ただ───彼が敵国の人間だったというだけ。
たったそれだけの話。
なのにどうしてこんなにも、俺は悲しいと思っているんだろう。

血が止めどなく溢れている。
彼はもう喋ることを止め、ぼんやりと空を見つめていた。
まるで死を受け入れているかのような姿が、無性に悲しかった。
思わず傍に近づいて、震える唇を開く。
何を云えるわけでもない。彼に傷を負わせたのは俺なのだから。
けれどせめて何かを言いたくて、けれど何も言えなくて。
敵国の人間なのだから名前なんて聞いた事もない。
だから、その名前を呼べもしなくて、ただ叫ぶことしかできなかった。
声を振り絞って、喉が張り裂けてしまう位に、叫ぶことしかできなかった。



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