君はいつもそうして





久々のオフ、市の図書館にでも行こうかと準備をしていた時、突然ポケットに入れていた携帯のバイブレーションが鳴った。こんなタイミングで連絡を寄越してくるような奴は一人しかいない。俺は借りていた本の返却を諦め冷蔵庫から例のブツを取り出し早々と家を出た。



「あ!柳!早かったね!」

「お前が季節外れのかき氷を食べたいと言い出す事は予め想定されていたからな」

「9月の始めの週はまだ夏だよ!柳だって半袖じゃん」

「お前はパーカーを着ているがな」

憎まれ口を叩きながらもどうぞ、と案内された居間は見知った場所でどこになにが配置されているか目を瞑ってでも分かるくらいになった。それだけ俺は夏子の家に来慣れてしまったというわけなのだが。彼女と俺は幼馴染みでは無い。高校に入って席が隣になった時に知り合ったクラスメートだ。話している内に自宅が近所だということが発覚したまに一緒に帰ったり、頭脳数値のあまりよくない夏子を手伝って彼女の家で宿題を一緒にするようになった。夏子のご両親は共働きで日中は公休日にも関わらず家にはいないことが普通らしい。夏子はいつもこの広い空間にひとりでいた。

「で、氷なんだけど!」

「お前が予め作っていた氷がこのかき氷機にサイズマッチしない確率は100%だ」

夏子が冷凍庫から取り出してきた丸い容器に入った氷は明らかに目の前に置かれたペンギン型のかき氷機の頭に収まるサイズではなかった。大きすぎる。恐らく夏子は丸い容器がこれしか見当たらずにこの容器に水を入れ凍らせたのだろうが、生憎この容器はこのペンギン型かき氷機付属の容器ではない。近くのスーパーで4つセットで売っているタッパーだ。大方彼女の母親がおかずの残りをしまうためにと買ってきたものをしまっていたのだろうがまさか、水を入れて凍らされるとは。彼女の思考回路を思うと頭が痛い。

「どーしよ!!今から凍らせる?!そしたら時間かかっちゃう!」

「…お前の行動は想定内だ」

全く溜め息しか出てこないが分かりやすい。前回この家に来たときにキッチンのテーブルの上に乗せられていたペンギン型のかき氷機の箱を見て、俺の家にあるものと同じだという事を知った。同時に今まで見る事がなかったその機械を目にした時、もしやと思って自宅で氷を作っておいたのだが正解だった。俺は持ってきていたクーラーボックスから規定サイズの氷が入った容器とチューブに入った練乳を取り出しテーブルに乗せた。

「え!どーして柳が?!しかもあたしが好きな練乳!冴えてるね!冴えすぎだね柳!」

「お前の家のかき氷機と俺の家のものが一緒だという事は既にデータにある」

「ほんっとうストーカー気質だよね!」

「他に言い方は無いのか…?」

でもありがとう!なんて笑顔で言いながら容器の蓋を開け氷を取り出しペンギンの頭にセットをする夏子を見ているのは、悪くない。冷蔵庫からいつ揃えたのか何種類ものシロップを取り出し一緒にガラスの透明な皿を持ってきた夏子は嬉しそうに俺の目の前で手動でガリガリとかき氷を作った。9月にもなってしまえば日中は暑くても日が傾くにつれ寒さが増してくる。その前に食べ終えてしまえたら、等と考えながら夏子が作ってくれるかき氷が出来上がるのを待った。

「じゃーん!」

そして数分、目の前には夏子が食べたがっていたかき氷。様々な種類の、かき氷。まさかこんなに作る事までは予想していなかっただけに少し引いてしまった。

「夏子、全部食べるから作ったのだろうな」

「ん?いや、柳が一緒ならいけるかなー?なんて!」

そして夏子はまた屈託の無い笑顔を俺に向ける。どうやら俺は彼女の笑顔に勝てないらしい。原因は、データにはない。その理由はとりあえず帰ってから調べることにして、今は目の前にある赤や緑や青、紫色をしたかき氷に溜め息ひとつ、スプーンを片手にそれを食べ始めた。スプーンを刺せば聞こえるしゃり、という音がまだまだ夏であることを連想させてくれた。










「んんー!美味しい!」

「うちの水は浄水器の水だからな」




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