イヤホンを耳から外して、聞き逃してしまった鳳の言葉を繰り返させた。
ラヂオ体操 さっきよりはしっかりとした口調で「俺が悪いんですか」と、けれどその声調はやっぱり弱々しい。
そんなでかい図体にもかかわらず何て情けないんだかと思いながら、首を横に振る。
「いや、もっとまえのところから」
「一体いつから俺の話聞いてなかったんですか」
だってちょうどあたしが好きな曲が流れ出したときに鳳が喋り出すんだもん。
そんなふうにペロッと舌を出して誤魔化そうとすれば鳳は引きつった顔で明後日のほうを向いた。
ドキドキしちゃってあたしのペコちゃん顔を真っ直ぐ見れませんでしたという理由なら納得してあげないでもないけど。
鳳は頭を抱える。
「俺、悪気はなかったんですよ。宍戸さんのためになると思って」
「悪気がないほうが逆に厄介だよね」
以前テレビでやってた討論会でおっさんが発言したことをそのまま言ってみた。
いつか誰かに言ってやろうと胸にしたためてた言葉。
鳳はそれ以降閉口したらしく、あたしの耳に届くのは蝉の鳴き声と小学生たちののんきな騒ぎ声。
静かだった公園も、鳳が湿気た面をしているあいだにこんなにも騒がしくなってきた。
あのさー昨日のドッジボールでさー、とただの話にガキンチョどもが大爆笑しているのを見ていると、鳳も同じように眺めていて。
「無邪気だったあのころに戻りたい」
切ない声を絞り出した。
呆気に取られるあたしを尻目に鳳は「うん、戻ろう」と1人呟いてベンチから立ち上がり、あたしの手を引っ張って広場へと歩き出す。
鳳はガキンチョどものあいだに整列して一呼吸置いたあと、こんどはちゃんと話し合ってみます、と決心したようで。
蝉が騒がしいなか、第一体操は始まった。
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