私のお気に入りスポット、テニスコート近くの自販機。あまり人は来ないし、おいしいソーダ水が売っている。夏に青空を見ながらベンチに座り、ソーダ水を飲むのは放課後の習慣になるほど気持ちのいいものだった。
パコン、パコンというテニスの軽快な音を聞きながら、自販機のソーダ水を選ぶ。空を見上げると今日も相変わらず青空が広がっていた。ガコン、と音がして出てきたソーダ水を取り出し、プルタブに手をかけると視界の端で金髪が揺れたのが見えた。どうやら自販機を使うらしい。この学校の校風もあり、外見はそこまで気にされないので結構染めてる奴は多い。私も気にせず、プルタブを開けたソーダ水を仰いだ。

「あー!?」
「ブゴッ」

後ろからいきなり大声で叫ばれて、ついソーダ水を吹き出してしまう。せっかく買ったソーダ水を無駄にされた恨みを込めて振り返ると、そこにいたのは先程の金髪だった。

「おま、それ!ささ最後のやん!」
「は?」

言いたいことがまとまらないのか金髪は訳の分からないことを口走っている。持っていたタオルを首にかけ、くせっ毛をピョコピョコと揺らしながらこっちに近づいて私の持つソーダ水を指差した。

「それ俺が買いたかったんに!売り切れになっとんのやけど!」
「知らないんですけど」
「白石ー!この子生意気!」

この金髪は買いたかったソーダ水を私に買われて怒っているらしい。早い者勝ちなんだから仕方ないでしょ…。
金髪が白石とか何とか叫ぶと、さっきから居たらしいよく分からないイケメンがため息をついた。

「すまんなあ、こいつちょっと頭おかしいねん」
「おかしないわ!」
「わかります」
「分からんでええ!」

白石さんが金髪の頭を掴んでお辞儀をさせる。金髪は不満そうだが仕方なく頭を下げた。

「俺忍足っちゅーねん。テニス部の」
「テニス部の…ああ、あのスピードスターさんですか」
「何でちょっとニヤニヤしとるん」
「え」

スピードスター、というのは聞いたことがある。同じ図書委員の財前から聞いた。

「初めまして、二年の夏野です。スピードバカでせっかちでうるさいスピードスターさん」
「誰が言っとったんそれ!」
「明らかに財前やな」
「あと白石さんは変態で変態な変態だって聞きました、財前に」
「変態で何が悪いねん!んーっ、絶頂!」

白石さんは財前から聞いた通りの変態だった。絶頂なんてこんな大声で言うものじゃないと思う。
呆れて残りのソーダ水を一気に飲んで自販機の横のゴミ箱に捨てた。

「あ!もう飲んだん!」
「はい」
「謙也、ソーダ水は諦めるんや」
「えー」

ぶうと頬を膨らませた忍足さんは、仕方ないという風に歩いていく。白石さんはこちらを見てすまんかったな、と呟いて忍足さんの後を追った。
なんだかうるさい人だったな、という印象を受けてため息をつく。すると自販機の前にタオルが落ちているのを見つけた。拾ってみると、タオルには四天宝寺中男子テニス部、と書いてある。明らかに忍足さんが落としていったものだろう。テニスコートからはまだ部活をしているらしい音が聞こえる。
仕方ない、とまたため息をついてテニスコートへ向かった。


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