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それから彼――蜂谷尋の部屋に同居させてもらうようになって、半年が経つ。
蜂谷の作る料理は彼の宣言通りおいしくて、その上生活力のある彼との暮らしは非常に快適だった。
七海は完全に閉まった扉に鍵をかけて、食卓の上に置かれた弁当をそっとかばんの中にしまった。
この弁当だって、七海のバイトが昼休憩をはさむ時は毎回用意してくれるものだ。手間だろうに自分の分のついでだと言って。
あまりにも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるため、逆に負担になっているのではと心配になるのが常だった。
特に今日は、蜂谷の通う高校では学園祭が行われる日である。
そのためここ最近は準備で帰りが遅かったり、当日である今日の登校時間はいつもより早かった。それでも変わらず家事をこなしてくれる彼は、けして口に出すことはないがきっと疲れている筈だろう。
だから――
バイトが終わったら、いつものお礼も兼ねて外食にでも誘ってみよう。
相変わらず財布の中は寂しいため高いところは無理だが、それでも彼なら喜んでくれると思う。
名案だと、七海がそう思ったところで、ピリリと携帯が鳴った。
着信音であるそれに慌ててポケットから取りだせば、画面に表示されているのはバイト先であるカフェの名前で。
発信ボタンを押せば、もしもしという間もなく耳通りのいい声が聞こえてきた。
『おっす、七海か〜』
「――おはようございます、木崎さん」
七海の現在のバイト先はとあるおしゃれなカフェで、木崎とはそのカフェの店長である人物だ。こう言っては難だが、女の子が好きそうなかわいらしい内装のカフェにいるのが意外に見えてしまうほど、木崎は体格のいい荒っぽそうな見た目の男だった。
ただその顔立ちは精悍で、女性客には絶大な人気を誇っていたりするのは余談である。
バイトまで後三時間ほど、という今、店長である彼から電話がかかってきたということは、なにか急な用ができたのだろう。どうしたんですか、と問えば、申し訳なさそうな返答が帰ってきた。